999話(2015年5月23日 ON AIR)
「絵描きの一生」

作・益山貴司
ゲスト・横田江美(A級MissingLink)

  
 

若い画家が、同じように若い女を描いている。
鉛筆を紙に走らせる音。

  
画家

もう少し、右を向いてくれないか?

こう?

画家

うん。それからちょっとうつむく

こんな感じ?

画家

ああ、いいよ

随分、鉛筆の芯が長いのね

画家

この方が描き易いから

私、しゃべってても大丈夫かしら?

画家

あんまり口を大きく開けなければね

そんなに大きい?私の口

画家

小さいよ

そうでしょ。そのくせ、唇は分厚くって

画家

そこがいいじゃないか

そうかな?

画家

そうだよ

ほんと、綺麗に描いてよね

画家

さあ、それはどうかな

え?

画家

見たままを描くのが絵描きの仕事だから

じゃあ、私の見たままは綺麗じゃないってこと?

画家

そういう意味じゃないよ

じゃあ、どういう意味?

画家

誇張しては描けないって意味さ

つまんないのね

画家

まあ、ぼくはそういうタイプだから。もう少し、右手をお腹に近づけて

こう?

画家

そうそう

どうして私をモデルに選んだの?

画家

見たままの美しさがあったから

ふーん。なんだか、とっても頭の悪い女みたい

画家

そんなことないよ

あなたには魅力的?

画家

ああ

だったら、あなたの目に映るように描いて欲しい。
私のこと、綺麗だって思うんだったら、もっと綺麗に描いて欲しい

画家

しかし・・・

でなきゃ、モデルやめる

画家

そんな

私のこと、絵にしたい?

画家

うん

どうする?

画家

えっと・・・

もういいよ

画家

あ!動かないで!

描いてくれるのね

画家

動かないで

うん。そうする

画家

そろそろ、しゃべるのやめようか

いいけど、最後に一言いわせて

画家

なんだい?

私のこと、愛してる?

画家

昨日出会ったばっかりだ

そんなの関係ないわ

画家

僕は君のことをなにも知らない

それも関係ない。愛しているかどうかを知りたいの 

画家

・・してる

なに?

画家

愛してる

私、黙るわ

画家

僕も、そうする

  
 

鉛筆の音、響く。
響きながら、時代は進む。
画家は老人になっている。相変わらず、絵を描いている。
メイドが現れる。

  
メイド

先生、お茶の時間ですよ

画家

おお、ありがとう

メイド

いつもいつも、同じ女性なんですね

画家

ああ

メイド

その椅子に座っているんですか?

画家

そうだよ。いつも、そこに座っている

メイド

ほんと、キレイな人

画家

ああ、昔からずっと、いつまでも・・・

  
  
(了)