1001話(2015年6月6日 ON AIR)
「ガソリン」

作・ピンク地底人3号

パソコンのタイプ音が聞こえてくる。

  
 

夜中の0時。
男が椅子に座っている。

  

明日締め切りの原稿を睨んでいると椅子が俺に話しかけてきた。

  
椅子

助けてください。

……

椅子

助けてください。

悪い。今、忙しい。

椅子

でも書けてないじゃないですか。

今から書くんだよ。

椅子

書けますか?

書くよ。仕事だからね。

椅子

もう間に合いませんよ。

……間に合うか間に合わないかはおまえが決めることじゃないよ。

椅子

助けてください。

あ?

椅子

魔女に閉じ込められたんです。元々私、椅子じゃありません。人間です。

……やっぱりおまえなんか買わなきゃよかった。

椅子

ありがとうございます。こんな私を買ってくれて。

なんでおまえみたいなボロ椅子を買ったのか、自分でもよくわからないよ。
しかもよく喋る。

椅子

あなたが私を見つけた時、私、とても力強く念じたんです。私を買って。

朝になったら捨ててやる。それまで黙ってて。

椅子

あなたは私を捨てられません。

捨てるよ。

椅子

もし私を助けてくれたら、あなたに原稿を書かせてあげます。

……何?手伝ってくれるの?椅子のおまえが?

椅子

たくさんの作家が私に座っていきました。
ほら。そこの本棚にある、あの本を書いた作家だって……

……

椅子

信じませんか?

信じないね。信じようがない。

椅子

別に信じて頂かなくて結構です。
私が言いたいのは、私を助けてくれたら原稿が書けますよ。それだけ。
切羽詰まってるんでしょ?試しに私を助けてみるのもありなのでは?

  
 

  

……どうしろと?

椅子

抱きしめてください。

……

椅子

そして足にキスをしてください。

……

椅子

大丈夫です。誰も見ていません……

  
 

男は立ち上がり椅子を抱きしめる。

  

俺はいわれるがままに椅子を抱きしめキスをした。
欲情した……俺は椅子に閉じ込められる。

しばらくそこにいておいてください。原稿は私が書いておきます。

  

朝がやってくる。私は庭に椅子を放り出すとガソリンをかけて椅子を燃やした。

  
  
終わり。