1014話(2015年9月5日 ON AIR)
「その先にあるもの」

作・

Sarah

出演・

平野 舞
大熊隆太郎

  
 

とある美術大学のキャンパス。
男が扉のオブジェを開けては閉め、開けては閉め、ただそれだけを延々と繰り返している。
ガチャリ、ギー、パタンという扉の音だけが何度も響く。
女がそれをつまらなそうに見ている。

  

ねぇ、いつまでやってるの?

決まらないんだ。この作品のタイトル

作品って……ただの扉じゃない(男に聞こえないように呟く)

  
 

ガチャリ、ギー、パタン。ガチャリ、ギー、パタン。

  

こう、扉を前にするとさ。わくわくするんだよね。開けたら何があるんだろうとか、
この向こうに誰がいて、今この瞬間どんなことが起きてるんだろうとか

でも、ここ校舎内だし。開けた先になにがあるかはわかってるでしょ。
いつもと変わらない、ただの展示室よ

そんなことないよ。ほら、こう扉を開けるだろ

  
 

ガチャリ。ギー。

  

今は開けた先に君が座ってる。つまらなさそうな顔をして。さっきまではなかったものだ

先生も言ってたよ。あなたは本気を出せば賞をとれるくらいの力があるのに、
なんだって、こんななんの変哲もない扉なんか作ったんだろうって

賞なんてどうでもいいよ。ねぇ、タイトル、何がいいと思う?

才能あるひとはお気楽でいいわよね

ほら、そこの窓から木の枝が見えるだろ。
君が来る前、扉を開けたら一羽のスズメが止まってたんだ。
でも、その次開けた時には、そのスズメはいなくなってた。
だから僕はこの作品を『消失』と呼ぼうと思ったんだ

いいんじゃない、それで

ところがだよ、もう一度扉を開けたとき、そのスズメが戻ってきていて、
さらにもう一羽、スズメが飛んできたんだ

……なにが言いたいのかさっぱりわかんない

この作品はさ、開けたその先にあるもの、瞬間、瞬間で変わっちゃうんだよ。
だからタイトルがなかなか決まんなくって

それよりお腹減った

お、いいね。タイトルは『空腹』

もういい加減にしてよ。私にはどこにでもあるような、なんの意識もしないで
部屋を行き来するだけのために開けたり閉めたりする、ただの扉にしか見えないの!

  
 

パタン。
男は扉を閉めてしまう。

  

……ちょっと、なによ。怒ったの?ねぇ、ねぇってば……違うの。ちょっと今、
描いてる絵が上手くいかなくて、なんていうか、その、八つ当たり。ねぇ……

  
 

返事はない。女はためらうも扉をノックする。
コン、コン。

  

ごめんなさい

  
 

ガチャリ、ギー。

  

……タイトル、決まったよ

え?

『仲直り』」

  
  
END