1021話(2015年10月24日 ON AIR)
「突端」

作・

稲田真理(伏兵コード)

出演・

平野 舞
大木湖南

  
 

愛媛県・伊方町・佐田岬。
青い空。駐車場から、灯台に向かう遊歩道。男女、ふたり。
猛烈な風の音が聞こえる。

  
知保

灯台まで、この風の音。

浩司

ドラクエみたい。ドラクエのラスボス、全ての音が無音になって、こんな音だった。

知保

…全ての音が無音になる。今も同じだよね。

浩司

今は無音じゃないだろ。

知保

風の音が、佐田岬を包んで、私たちは風の音の中にいる。
風の音の向こう側は、実は今全く無音になっている…かもしれない。

浩司

ここ、ひとりで来れる?

知保

ひとりはやだよ。怖い。私、突発的に、崖から飛んでしまいそう。

浩司

ワーッて、なって?

知保

そう。音が迫って来て、耐えられなくて、ワーッてなる。
そうなったら、走り出しちゃうから。

  
 

知保が喋るのをやめて、立ち止まる。

  
浩司

はい、行くよ。

知保

うん。

浩司

…あと、灯台までどれだけ歩くんだ。

知保

駐車場から20分。

浩司

20分以上歩いてないか。

知保

ねえ。

浩司

うん?

知保

…自分が何かしてしまうかもしれないって怖くなったりしない?

浩司

無意識のうちに、ことを起こしてしまうかもしれないって?

知保

自分がコントロールできない恐怖。

浩司

アンコントロール。

知保

私を急に襲って、バラバラにしたりしない?

浩司

…あるかもな。

知保

あるの?私はしないよ。

浩司

…切羽詰まったら、相手をバラバラにする可能性が無いとはいえないだろ。

知保

…さっきからバラバラって、表現。怒られるよね。

浩司

文脈考えずに、言葉尻だけ攻撃するやつがいるからな。

知保

うん。

  
 

前から、灯台観光を終えた男性がやって来て、すれ違う。

  
男性

こんにちは。

知保

こんにちは。

浩司

…。観光する時に、見知らぬ同士が挨拶してすれ違うっての、俺が撲滅する。

知保

なにそれ。

浩司

なんか、恥ずかしいだろ。

  
 

知保が後ろを振り返る。

  
浩司

どうした?

知保

こんな、佐田岬の灯台に向かう遊歩道で、暴漢に襲われたら怖いじゃない。
助けを呼んでも、誰も来てくれない。

浩司

…ああ。地震が来ても、これだけ高いところなら、大丈夫だな。

知保

津波のこと?

浩司

そう。瀬戸内海まで、津波到達時間かかるだろ。

知保

ここ、どこだ。

浩司

え、佐田岬。

知保

何県?

浩司

愛媛県。

知保

何町ですか。

浩司

伊方町。え、なに。

知保

さっき、遠くから見えたでしょ。白い、丸い、屋根の。

浩司

ああ、伊方原発?

知保

いま、伊方原発になにか起こったら…佐田岬半島より西の住民は孤立する可能性があるって。

浩司

対策は?

知保

観光客がこんな場所にいて、同じように助けてもらえると思う?

浩司

いや、助けてもらえないと。

知保

アンコントロールになったら、それは難しいでしょ。

浩司

…あ、着いた。

知保

着いた。ここが、四国、最西端。

浩司

うん。

知保

そら恐ろしいね。

  
浩司

おう。

知保

海も、風も、白い、丸い屋根の建物も。そら恐ろしいね。

  
 

風が凄い音を立てて、吹き抜けて行く。