女 | 小麦色のあんぱんが、あなたの指先を蝕んでいること? |
男 | ただ薬品の調合を失敗しただけだよ |
女 | 身体の細部が泣いてるってことは、都会は大騒ぎなのよ |
男 | すぐ戻るよ |
女 | お皿洗わんとって |
男 | もう使っちゃった |
女 | 洗剤だってアルカリ性でしょ |
男 | ハンドビューティーだよ |
女 | ダメ。それに最近味濃くなって来てるでしょ |
男 | ごめん。濃かったね、薄めようか |
女 | そういう問題じゃないよ。ほら、貸して |
男 | だめ。まだ数珠つなぎの目玉がひりひりしてるでしょ |
女 | もう |
男 | 美味しいの作るから待ってて |
女 | もう待つのいやなの。本棚が本棚に化けて道に迷うの |
男 | 都会が大騒ぎだからね。先生もいろいろおっしゃるよ ぼくは見たよ。お茶碗の皮膚は欠けていて、道がとざされたあと、 皮膚はすぐさま白い爪になっていたのを |
女 | 瀬戸物よりも壊れ物。お茶碗ひとつのうなって、触ってみたら 女の子やのうなったみたいやったわあー |
男 | 笑いごとやないでしょ、あなた |
女 | あ、それ、大きなカブ。割れやすいから気をつけて |
男 | おっと。大丈夫 |
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| 大きなカブ、割れる。 |
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女 | ほらもう |
男 | やっちゃった |
女 | お気に入りだったのに |
男 | ごめん |
女 | ほら、触らないで。溶けた指先にカブが生えちゃうよ |
男 | 箒持ってくる |
女 | 大丈夫。痛っ |
男 | あぁ、お茶碗からぶるんって |
女 | 心配してるって、便利な言葉やったね |
男 | 大きなカブ割ったのおれだからおれがやるよ |
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| 箒で掃いている音。 女はしばらくじっとみている。 |
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女 | 最近、寝てないもんね |
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| お茶碗をゴミ箱に入れるときのゴンゴンいう音。 |
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男 | 寝てるよ |
女 | うそ。こんな眠いのに、なんでおしっこ行かなあかんねんって言ってたよ |
男 | ごめん、おれうるさかったね |
女 | 次から飲んだげるから安心してね |
男 | ううん。好き |
女 | めっちゃ眠たそう |
男 | おれもうダメかもしれない |
女 | うん |
男 | しんどい |
女 | しんどいね。知覚することはそれだけで才能なの。 |
男 | 痛いでしょ |
女 | 痛い。眠たいね |
男 | 眠い |
女 | 寝よう |
男 | 君のお茶碗に大きな丸いピンポン玉がごろついてて、 おれはそれをね、長いこと気が付かずに口に入れたりしてたんやで |
女 | 地球に生まれた赤ちゃんが、なんでも口に入れて地球を身にまとっていくのと一緒やんか |
男 | おれは何も目に入れてない。日常のクオリティが低い証拠や |
女 | ちゃんと病院まで連れてってくれた。触って |
男 | うん |
女 | ごめんな、日常のクオリティ低くて |
男 | あ |
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おしまい |