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1042話(2016年3月19日 ON AIR)
「319の豚まん」
作・ | 山内直哉(隕石少年トースター) |
出演・ | 平野 舞 森澤匡晴 |
- アコースティックギターの音色。
同じフレーズばかりを鼻歌で繰り返す男 ギターのストロークがパタッと止まる
- 男N
- 何のために音楽があるのか。ふと、分からなくなることがある。
〆切は今日。3月19日。あと2時間。完成の目処はついていない。 見ないようにしていたカレンダーを見る。 すると、3月19日に豚のシールが貼ってあることに気づいた。 え、自分で貼ったのか?
- 豚
- ブーブー
- 男
- 今日、何の日だっけ
- 豚
- ブー!
- 男
- え、打ち合わせ?
- 豚
- 豚まん
- 男
- 豚まん?
- 豚
- (豚の声が突如、女の声になって)豚まん
- 男N
- ハッ。かわいい声。白い肌。放課後。灰色の空。ポケットの中。
100円玉。もうすぐ春だというのに、まだ寒い、夕暮れの街…
- カラスの鳴き声
- 女
- 豚まん
ねえ、この豚のシール、かわいくない?
- 男
- 1個しか買えなくてごめん
- 女
- コレ、もらっていい?
- 男
- シール? そんなにかわいい?
- 女
- もーらい
- 男
- そんなのどこに貼るの
- 女
- ポチ(と、男の額にシールを貼る)
- 男
- ちょっと?!
- 女
- おでこ牧場に、豚を一頭放ちました
- 男
- おでこ牧場って何だよ
- 女
- カラシつける?
- 男
- つけない。つけていいよ
- 女
- 私もつけない
- 男
- はい(と、豚まんを半分にして渡す)
- 女
- ありがと。おわぁ、あったかい
- 男
- おでこ牧場の件だけど、10年、いや、20年後にはさぁ、
豚1頭だけじゃなくて、牛が2頭、いや、もっともっとたくさん放牧できるように、 俺、音楽頑張るから
- 女
- ずっと待ってる
- カラスが激しく騒ぎ立てる
- 女
- どうしたの? ねえ(女の声が突如、豚の声になって)どうしたの?
- ギターをポロンと弾く音
- 男
- 思い出したよ。その日、俺は舞い上がって、
おでこに豚のシールを貼ったまま帰ったんだ。 そして、必ず音楽であの子を幸せにするぞって決めたんだ。そして―
- 豚
- そして?
- 男
- カレンダーにその豚のシールを貼った
- 豚
- それが僕だ
- 男
- でも…
- 豚
- でも?
- 男
- 高校時代のことだよ。20年前のシールが何で今
- 豚
- ブヒヒ
- 男
- 何だよ
- 豚
- ブヒヒヒ
- 男
- おいおい、何か言えよ
- 女
- ブヒヒ
- 男
- え?
- 女
- 曲出来たの?
- 男
- おかえり
- 女
- ご飯買って来たよ
- 男
- なあ
- 女
- 何?
- 男
- おでこ牧場って、覚えてる?
- 女
- (笑って)もちろん。私、今でもお守りにコレ持ってるもん
- 男
- 何コレ? え、カラシ?!
- 女
- あなたに初めてプロポーズしてもらった日の、カラシ
- 男
- ずっと財布に入れてたの?
- 女
- うん
- 男の奏でるアコースティックギター
オリジナルソングに男のナレーションが被る
- 男N
- 何のために音楽があるのか。ふと、分からなくなることがある。
妻が買ってきてくれた“豚まん”をほおばりながら、俺は想う。 人は大切なことをすぐに忘れてしまうから、そのために記念日があり、 音楽があるんだろうなと。これからもそんな“記念日”のような作品を創っていきたい。
- 終
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