1052話(2016年5月28日 ON AIR)
「恋する乙女の重低音」

作・

福谷圭祐

出演・

平野 舞
森澤匡晴

  
 

寝室。女の酷いいびきが響き渡る。
男、眠れずに起き上って、

  
あのー。かほちゃん。……かほちゃん、ちょっと。

(起きて)ん、ふぇえ?

かほちゃん、あのー、非常に言いづらいことなんだけど……。

(また眠り、いびきをかく。)

……かほちゃん。

(激しく、いびきをかく。)

かほちゃん。 起きて! かほちゃん!

ふぇ、ふぇえ? なにぃ?

かほちゃん、あのね、すごいんだ。

どうしたのぉ。

僕たちが、今日からこうやって一緒に生活するにあたって、
わりと深刻な問題が発生してしまっているんだ。

そうなのぉ。

そうなんだ。かほちゃんは、それがどんなことかわかるかな。

えー……髪の毛が……。

え? 髪の毛……? なんだい、髪の毛って。僕の髪の毛が薄くなりつつあるって話かい。

(また眠り、いびきをかく。)

かほちゃん、かほちゃん!

ふぇぇえ。

かほちゃん、あのね、確かに僕の髪が薄くなりつつあることも重大な問題かもしれない。だけど、それは毎日の生活には関係ないと思うんだ。
僕が問題視しているのは、日々の暮らしの中に潜んでいるとある事象なんだ。

わかんなぁい。

かほちゃんは、僕はすごく可愛いと思う。

えぇ? んふぅ、ありがとぉ。

だけど、その可愛らしさの中に、大変なものが隠されているんだ。

なに、もうやだエッチぃ。

エッチな話はしていないんだ。
エッチな話をするとき、僕はこんなに真面目な顔をしないんだ。

(眠りそうに)んー…。

かほちゃんが思っているより、事態は深刻なんだ。

(眠り、激しくいびきをかく)

かほちゃん、今日は初日なんだ。
僕はこれからもかほちゃんと一緒に長く暮らしていきたいんだ。
そのためには、お互いがお互いを思いやることが大切だと思うんだ。
君が望むのなら、明日にでもカツラを買おうと思う。

んごっ(無呼吸)

…………かほちゃん?

(激しくいびきをかく)

かほちゃん! かほちゃん!

(起きて)もう! なんなのさっきからうるさいなあ!

かほちゃんのいびきがうるさいんだ!

  
 

間。

  
ほんと?

ほんと?

ごめん。

いや。

恥ずかしい……。

こっちこそ…、はっきり言ってごめん。……かほちゃん?

  
 

間。

  
(いびきをかく)

いつまでも一緒にいたいからこそ、てーいっ!(と、女を叩く)

いったー! なによもうー!

今日と同じ明日をいつまでも乗り越える覚悟は僕には無いんだ!

何いってんの、このツルツル頭!

  
 

そしていつまでも夜は続く。

  
  
  
END