1063話(2016年8月13日 ON AIR)
「HELLO」

作・

中川真一(遊劇舞台二月病)

出演・

平野舞
大熊隆太郎

すいません、やっぱりもう少し考えさせてください。この紙、もろて帰ってもええですか。

  
 

自動ドアが開き、男がハローワークから出てくる。手には求人紙が握られている。
男は大きくため息をつく。

  
同じですわ。

  
 

男は駐車場に停めた軽自動車に近づき窓を叩く。
車の中で寝ていた女は眠たそうに伸びをしてから、返事をする。

  
ふぅうあー。はい、はい。

  
 

日照りの中で長時間停めてあった車の熱気が男をたじろがせる。

  
ん?入らんの?

暑っ。お前、エンジン切るな言うたやろ。

節約やん。

  
 

男は言葉を返すことができない。

  
なぁ。車、入らんの。

お前、こないに熱こもった所で、よぉ寝てられるな。そっちのドアもあけぇ

  
 

男と女二人で軽自動車のドアを仰いで車の中の空気を入れ替える。

  
不機嫌め。あかんだん?

アカンことはない。引く手数多や。

嘘つき。なんで、不機嫌。

  
 

男は少しの時間、言葉に詰まる。

  
怖い顔するわぁ。

こない暑いところで、熱中症なるで。心配かけなや。

大丈夫やて、うちら子供ん頃なんか、クーラーないのん当たり前やったやんか。

お前は暑さに鈍感なんや。日照りの車ん中はエライ温度なんのや。知っとるやろ。

  
 

男は女の腋を触る。

  
なんやのくすぐったい。

脇汗凄まじいやんけ。

  
 

女は急に恥ずかしくなる。

  
なっ、あんた。なんでそんなこと。

お前、待っとれ。

  
 

男は隣の本屋に走っていく。男は離れていく。女の声は男に聞こえない。女が周囲の音から遠ざかる。

  
待ってる。ウチは待ってる。パチ屋の駐車場、6時間蒸されて生き延びた子供や。待つのは得意。
  いつまでも待つよ。だって待ってる程、帰ってきたとき心配してくれるやん。
待ってるだけで、あんたに負い目つくれるやん。それがないと、うちと一緒にいてくれへんやん。

  
 

環境の音が戻る。男が帰ってくる。自動販売機でジュースを買って来たようだ。

  
ほれ、脱水気ぃつけぇ。

  
 

男はペットボトルの水を女に渡す。

  
もう、節約台無しやん。

いや、俺、仕事決めてくるわ。

なんで、急に。

いや、新しい仕事で、年下に叱られんの嫌やなぁ思ってたけど。お前、熱中症なる方が嫌やわ。

そんなんで決められたらウチ嫌や。

どうせ、いつかせなアカン覚悟や。紹介状もろてくる。

  
 

男が再びハローワークへ向かう。女はそれをしばらく見ている。

  
なぁ、クーラー。入れてええ?

あほ。一緒にいくで。熱中症、なったらどないすんねん。

手遅れかもしらんわぁ。

  
  
終わり