1064話(2016年8月20日 ON AIR)
「もういちど。」

作・

たみお

出演・

平野 舞
森澤匡晴

(咳払い)夫よ。
あなたとともに暮らすようになり、かれこれ 20年。私たちはうまくやってきました。

同感です。

私は電気やさんの販売員。

僕は、小さな会社のサラリーマン。

給料日になったら、レストランで食事する。

つつましく暮らしてこれたね。

この度、あの子も、家を出ましたし。

ちと、寂しいが。

では・・・そろそろ・・・次なる土地を選ぼうと思います。

結婚当初の約束だものね。

ええ。

  
 

地図を広げる。

  
このあたりはどうでしょう。

ほう。イタリアですか。

イタリアです。しかも。

ミラノ、ですか。

ミラノです!

大胆だなァ。

大胆に行かなくちゃ!人生だもの!

それじゃあ、僕は靴職人の弟子になる。

お弟子さん?その年で?

何を始めるのにも、遅いはない。僕はいい靴をつくるよ。

じゃあ私は・・・小説をかきます。

小説??君が?

恋愛小説。(いばる)

恋愛小説?きみが。

はい!

まあ。何を始めるのにも、遅いはないからね。

それじゃあ、

ふたり決まり。

出会い方はどうします。

それね。ずっと考えていたんだよ。

え?(わくわく)どんなの?

きたる 2017年、12月 2日。

私の誕生日だ。

君は 50才になる。
イタリア、ミラノ。たったひとりぼっちの誕生日だ。 しかも、知り合いもいない。
誰かに、おめでとうって言ってもらいたいけれど、友人たちは皆夢の中だ。

時差があるものね。

人恋しくて、賑やかなところに君はいく。夜の 8時スカラ座の前だ。

スカラ座?

  
劇場だ。今日もまた、眠れぬ夜の幕があく。

お芝居を見るのね。

そう。君の座席は Gの5。僕の座席は Gの 8

隣じゃないの?

それじゃ出来すぎてるだろ。さあ、幕が上がれば、恋するオペラの始まりだ。
らーらーらー。
(むせる)全編イタリア語なもんで、君はちょっと退屈になる。

なりそうよ。

幕がおりて拍手喝采の中、つまんなそうに君は席を立つ。
それで日本語恋しさに、ちいさな声で、歌を歌うんだ。

うた?

  
うーん・・・はるの小川とか。

オペラの後に? 春の小川?それで?(ちょっと怒ってる)

思わず僕は声をかけちゃうんだ。いい歌ですね。さっきのオペラより断然いい。

え?

春の小川。アンコール。もう一度。一緒に。

もう一度、一緒に?・・・歌うの?

うん。(笑う)僕らは、イタリアの、ミラノの、スカラ座の、オペラのあとで、一緒に、
春の小川を歌うんだよ。それから、僕は、ようやく、君の名前を聞くんだ。

そしたら、私は、初めてのふりして、答えるのね。

うん。初めてのふりして。

そこで初めて、もう一度、私たちは出会うのね。

そう。どうだろう。

変なの。でもとっても素敵。

それじゃあ、
ふたり決まり。

じゃあ、さようなら。

さようなら。

いい?忘れないで。誕生日になったら、スカラ座、8時、Gの5だよ。 

あなたこそ! ちゃんと見つけてね。でないと私大きな声で歌うから。

わかった。

あのね、ありがとう。

うん?

もう一度、あなたと恋ができるのね。

よろしく。

こちらこそ。

ふたりそれじゃあ、さようなら。(笑う)