1077話(2016年11月19日 ON AIR)

「真面目な息子とその母親」

作・嘉納みなこ
出演・平野 舞
森澤匡晴
ノックの音。
おかん
ヒデシさん。入ってもいいかしら。お夜食を持ってきたのだけれど。
ヒデシ
ありがとうございます。母さん。
おかん
お勉強は進んでいる?
ヒデシ
ぼちぼちです。
おかん
ぼちぼちですか。今は何を。
ヒデシ
数学です。こちらは素因数分解です。分解するのです、数字を、素因数で!!
おかん
まあ、難解!!こちらは?
ヒデシ
漢詩の五言絶句です。絶句するのです。たった五言で!!
おかん
まあ、壮絶!!こちらは?
ヒデシ
ベートーベンの肖像画です。
おかん
(悲鳴)
ヒデシ
母さん!!
おかん
恐ろしい顔・・・!こんな顔でよくも、名曲を・・・!
ヒデシ
顔のみで彼は語れません。問題は彼の髪の毛です。
おかん
髪の毛?
ヒデシ
天才の勢いというのは、頭髪に現れるものなのです。
ベートーベンしかり、葉加瀬太郎しかりです。
おかん
(拍手)冷静な分析。まるで、液体窒素のようだわ。
ヒデシ
ハハ。
おかん
それにしてもヒデシさんはえらいお子ですね。毎日絶え間なく勉学なさって。
ヒデシ
それほどでもありません。
おかん
あら、謙遜がでたわ。一万円あげましょうね。
ヒデシ
そんな、いいですよ。
おかん
あら、遠慮がにょっきり。二万円にしましょう。
ヒデシ
やめてください。どうかお構いなく。
おかん
・・・さよなら、ヒデシさん。
ヒデシ
母さん、その包丁は・・・?
おかん
私など、死んでしまうがいい!!
ヒデシ
やめてください、母さん!!
おかん
ヒデシさんが悪いんじゃないですか、この母に、かまうな、などと・・・!
ヒデシ
失言だったと思っています!
おかん
よいですか、ヒデシさんがこの母の産道からこんにちはした時から、
ヒデシさんを守り育てることがこの母に課せられた神聖なるアガペーとなったのですよ!その母のアガペーを、ヒデシさんは放棄しろとおっしゃるのですか!!
ヒデシ
申し訳ありません!申し訳ありません!
おかん
なぜ二回も。
ヒデシ
リフレインです。
おかん
リフレイン。
ヒデシ
古くは松任谷由実が用いた、由緒ある表現方法です。
おかん
お見事です!
ヒデシ
恐れ入ります。
おかん
では只今より、松任谷由実の曲を荒井由実時代も含め、全曲歌っていきましょう。
ヒデシ
朝までかかりますよ!いや、朝までかかっても歌いきるかどうか!
おかん
いきますよ?
ヒデシ
待ってください!・・・母さんは明日が何の日か知っているのですか?
おかん
ヒデシさんの入試の日。
ヒデシ
わかってるんじゃないですか!!僕はもう七浪もしてるんですよ!
おかん
まあ、だから何だというのですか。明日が入試であろうがなかろうが、
ヒデシさんと私という、ステキな母と息子の一日に変わりはありますか?
ヒデシ
わけがわからない!!
おかん
どうしたの、ヒデシさん。怖いわ・・・。ほら、お夜食をお食べなさい。
ヒデシ
母さん、僕の友達の話では、母親というものは・・・。
おかん
(お茶を息で冷まして)はい、熱いから、気を付けてね。
ヒデシ
・・・ありがとうございます。
おかん
あっ、これを入れなければ。
ヒデシ
ん?
おかん
(かき混ぜて)どうぞ。
ヒデシ
(飲んで)ありがとうございます。母さん。さっきはすいませんでした。怒ったりして。
いつものことなのに。
おかん
まあ。ほほ。
ヒデシ
ところで、さっきのはビタミンCか何かですか?
おかん
えっ?
ヒデシ
お茶に混ぜた。
おかん
ああ、サルモネラ菌です。
ヒデシ
サルモネラ菌?
おかん
ええ、明日大事な入試の日ですからね。食中毒にならないよう、
今のうちから耐性を作っておかないといけないと思ってね。がんばれ、善玉菌。
ヒデシ
(苦しんで)ああ・・・!!もう一年か・・・!
終わり。