1082話(2016年12月24日 ON AIR)

「レモンは関係ねえんだよ」

作・福谷圭祐
出演・平野 舞
森澤匡晴
ここは居酒屋。
快晴
唐揚げ、レモンかけていい? よいしょ。
と、言いながら、快晴は鶏の唐揚げにレモンをかけた。
曇天
おい。てめえ、ふざけてんのかよ。
快晴
あれ、ごめん。だめだった?
曇天
だめじゃねえよ。
快晴
え? あ、そう。
曇天
選択の余地があったのかよ。
快晴
選択? なに?
曇天
今、俺に選択の余地があったのかよ。てめえ今、「レモンかけていい?」って言いながら、もうかけてたじゃねえかよ。よいしょっつってよ。
快晴
ああ。ごめん、ごめん。レモン嫌いだと思わなくて。
曇天
レモン嫌いじゃねえよ。
快晴
え、なに、どうしたの?
曇天
もしもの話をしてんだよ。
快晴
もしもの話?
曇天
もし俺がレモン嫌いだったら、てめえが「レモンかけていい?」って言いながら
すでにかけちゃってたとき、俺は、どうすりゃよかったんだよ。
快晴
いや、言ってくれれば。
曇天
すでにかけちゃってんだよ、てめえは。
快晴
え、でもすぐ言ってくれれば、ちゃんと止めたけど。
曇天
てめえが手を止めても、もう汁は滴り始めてるんだよ。
なぜならてめえは絞っちゃってるわけだからよ。
快晴
そんなに怒んなくても。次からはかけないよ。
曇天
違う、てめえ、全然わかってねえ。
快晴
いや、ごめん。でもこの辺なら、そんなにかかってないから。
曇天
かかってていいんだよ。
快晴
ええ?
曇天
かかってていいんだよ。この辺にもかけろよ、じゃあ。
快晴
ごめん、全然意味分かんない。レモンかけたくなかったんでしょ。
曇天
おい。真面目に聞いてくれ。今、レモン関係ねえんだよ。
快晴
今、レモンが関係なかったら、一体何の話なんだよ。
曇天
権利の話だよ。
快晴
冷めちゃうよ、唐揚げ。
曇天
あのな、俺はな、レモンをかけるもかけないも、自由なんだよ。
それは俺に与えられた権利なんだよ。俺だけじゃねーぜ。てめえにもその権利はあるし、
地球上の全員、自由に選ぶ権利があるんだよ。
快晴
え、なに、どうしたら良かったわけ。
曇天
「レモンかけていい?」ってお前が質問するだろ。
快晴
うん。
曇天
そんで、俺が「いいよ」って言うんだよ。
快晴
うん。
曇天
そんで初めて、お前はこの唐揚げにレモンをかけるんだよ。
快晴
いや、だからさ、かけてよかったんだよね。そもそも。
曇天
かけていいよ。
快晴
じゃあ、別に良かったじゃん。
曇天
だから、かけちゃダメだった場合の話だろうが。
快晴
かけちゃダメだった場合じゃないじゃん。今、この、訪れた未来は。
曇天
別の未来の可能性もあっただろうがよ。それを恐れろって話だよ。
快晴
起こらなかった可能性について議論したって、意味ないじゃんか。
曇天
それを繰り返して人類は進歩するんだろうがよ。
快晴
そんなのは進歩じゃなくて、単なる足踏みじゃないか。
曇天
……じゃあてめえ、俺が「キスしていい?」って聞きながらキスしてきたらどうだろうよ。ちょっと待てってなるだろうが。
快晴
ならないよ、だってキスしていいもん。
曇天
だから、ダメの可能性もあるだろうよ。イエスかノーかは一旦必要だろうよ。
快晴
いらないよ。だってイエスだもん。もういい。唐揚げ食べていい? よいしょ。
曇天
だからよぉ、てめぇよぉ! 食べっちゃってんだろうが、「食べていい?」って聞いといて、食べちゃってんだよ、お前はもう、すでに!
快晴
(もぐもぐしながら)食べたかったら食べればいいじゃん。
曇天
おおう、もう。(もぐもぐ)
快晴
(もぐもぐ)なんなのよ、もう。
曇天
(もぐもぐ)なんなんだ、一体。
快晴
(もぐもぐ)
曇天
(もぐもぐ)
END