1096話(2017年4月1日 ON AIR)
「無邪気に海で」

作・

合田団地

出演・

平野 舞
大熊隆太郎

『ちょっと無邪気すぎだと思っている。電車の中でもずっとはしゃいでいたし、
ここに着いてからもそうだ。とにかく彼女は今日一日中楽しそうにしている。
そりゃ、僕だって、この日をどれだけ心待ちにしていたかわからない。
眠る前に今日までの日を指折りかぞえてきたのだ。だから、本当は楽しいし、
彼女とずっと一緒にいられることが嬉しい。でも、僕達は本当はそんな関係じゃない。
残してきたもののことや、これからのことを思えば、僕はとてもじゃないけど、
彼女のように無邪気にはしゃいだりはできない』

  
 

――波の音。

  
そんなに近付いたら濡れるよ

平気平気

『彼女は波打ち際で、波を避けている。まだ寒いのに、水だってきっと冷たいのに、
もし、濡れたらどうするのだろう。着替えを持って来ているのだろうか。
でも、そうやって遊んでいる彼女の姿を見ているのは楽しい。
ようやくそんな彼女の姿を誰の目も気にせずに見ることができる』

となり、いい?

いいよ。勝手に座ったらいいのに

そうだね

楽しい?

楽しかったけど、疲れた。波よけるの楽しいけど、一人じゃさみしいね

『彼女が僕のとなりに座る。二人で黙って海を眺める。僕は彼女の肩を抱いて体を引き寄せる。
海風になびいた彼女の髪が頬にあたってくすぐったい。笑ってしまわないように我慢するが、
でもどうしてもくすぐったくて笑ってしまう』

なに笑ってんの?

髪がくすぐったくて

ああ、ごめんね。もうちょっとくすぐったいの我慢してもらってもいい?

え?

私、今、すごい幸せかもしれない

幸せなの?

うん。幸せ

そっか。よかったね

ありがとう

『それからずっと、彼女の肩を抱きながら海を眺めていた。
照れて言えなかったけど僕だって幸せだった。この時間が永遠に続けばいいのにと思った。
照れずに、僕だって幸せだと言えばよかった』

あ、綺麗だね

夕陽?

夕陽ってこんなに真っ赤で、こんなに大きいんだね

こんなの初めて見た

私も

  
  
――終わり。