1102話(2017年5月13日 ON AIR)
「似てくる夫婦」

作・

森澤匡晴(スクエア)

出演・

平野 舞
大熊隆太郎

  
 

レストランに向かう車中。
午後7時前。
市街の道路は渋滞で動かない。

  
あぁ。動かない。

チッ。だから言ったでしょ。夕方のラッシュに引っかかるから、6時過ぎには迎えに来てって。

仕事が長引いたんだよ。

チッ。今日は何の日かわかってる?

結婚記念日だよ。

チッ。去年もそう。いつもそう。だからレストランは8時予約でよかったのよ。

よもやこんなに混むとは思わなっかったんだよ。

チッ。役に立たず。

あのなぁ。いい加減その舌打ち止めないか?
つとに言ってるだろう。印象悪いって。

ほっといてよ。

よしんば俺の前とか、よしんば家族の中だけならいいけど、外でやるのは良くない。
よしんば「気にしないよ」って言ってもらったとしても・・・

よしんば!・・よしんば!何?よしんばって!

「よしんば」は「よしんば」だよ。

そんな普段使わない言葉使うの止めてくれない?

何言ってんの?押しなべて使うよ、「よしんば」ぐらい。みんな押しなべて「よしんば」は・・・

押しなべて!また出た。押しなべて。聞きなれない言葉を耳にすると、気持ちがノッキングするのよ。その言葉が引っかかって内容が頭に入ってこないの。

「よしんば」だよ?「押しなべて」だよ?いずくんぞ知らんや。

はぁ?あんたいつの時代の人?

げに現代だけど。

チッ。からかってんの?

ほら、また舌打ち。

チッチッチッチッチッチッチッ。あーイライラするぅ~~~~~。

良くないなぁ~~。それは良くない。急がなければならないときに限って、
すべからくイライラしちゃいけない。

すべからく。

イライラすることによって、あまねく事故や事件が降りかかってくる。

あまねく。大層学がおありのことですねぇ。
あなたという人物は。よもやそんな人間だとは思わなかった。結婚する前はね。

ん?よもや?

あ~~あ。なまじ大学で教鞭をとってるから、そういう言葉を使いたがるんですかねぇ?

なまじ?

しかしあなたは只の講師。教授でもなく、准教授でもない、只のちんまいちんまい非常勤講師。

ちんまい?

ちんまいちんまい。ちんまい講師だわ。あ、もとい。ちんまい非常勤講師だわ。

もとい!ちょっと待って。あ、もとい。しばし待って。

しばし!

君だって使ってるじゃないか。よもやとか、なまじとか。

何がよ?よもやぐらいとみに使うでしょう。

とみに!

なまじなんかは日常茶飯事よ。

自分のことは棚に上げて、よくもまぁおいそれと。

おいそれと!おいそれとなんかひねもす街を練り歩いても耳にしないわ。

ひねもす!ひねもすこそ俳句の世界でしかついぞ聞いたことがない。

ついぞ!あなたって人はよくもまぁ次から次へとそんな言葉・・・そんな言葉・・・
つぶさに出てくるわねぇ?

つぶさに!君こそぉ~~~よどみない。

よどみない。よどみな~~~~い。それ今あたし、くしくも使おうと思ってたのよ~~。
よどみなくとつぶさに、どっちが適当か悩んで、つぶさにを使っちゃったぁ~~。

まぁ、そんなことはさもありなん。

御意。

  
 

プップーー。後ろからクラクション鳴らされる。

  
二人えぇ?

あぁあんた。あんた前。空いてる。

チッ。わかってるよ。(車を進める)

えぇ?あんた今舌打ちしたでしょ?

えぇ?

チッて。チッてしたでしょ。

やってないよ。

やったやった。チッてやった。あたしこの耳でしかと聞いたもん。

チなんかしてない。・・・チュッてやったんだよ。

え?

チュッて。

なんで?なんでこの状況でチュなのよ?

それは・・・それはだって・・・結婚記念日だからさ。

・・・だとしても~~~~~・・・だとしてもこの状況でチュはないわ。

  
 

プップーーー。また鳴らされる。

  
二人チッ。・・・・え?・・・フフフフフ・・・

  
  
~おわり~