1117話(2017年8月26日 ON AIR)

「午前2時のあのひと」

作・竜崎だいち(羊とドラコ)
出演・平野 舞
森澤匡晴
カツーン、カツーン、硬そうな靴でゆっくりと歩く音が、廊下に響く。
定時巡回、午前2時。
たまに看護師さんも歩いてるし、ナースステーションは夜中でも少し明るい。
とはいえ、夜中の病院の静けさと暗さは、他の施設のそれよりも深い気がする。
静かな方がいい。騒がしい時は、どこかの誰かが苦しんでる証拠だ。
足音が止まる。何かを確認しているのだろう。また歩き出す。
303号室、異常なし。僕に霊感はない。
302号室。点滴が落ちる音さえ聞こえてきそうな静けさ。あの角を曲がると301号室。
そこで、僕はいつものように懐中電灯の明かりを消す。深い闇が廊下に落ちる、
代わりに、曲がり角の向こうが薄ぼんやり、明るくなる。
女霊
こんばんは。
こんばんは。
女霊
来る頃だと思ってました。
今日も異常なしです。
女霊
良かった。
彼女は光が嫌いだ。彼女の体は薄ぼんやりと光っている。懐中電灯は必要ない。
僕に霊感はない。はずなのに。彼女はとても綺麗な人だ。とても、幽霊だなんて思えなかった。
それじゃ。
女霊
待って。
え。
女霊
お願い。聞いて。
彼女はいつも何かを訴えかけてくる。だけど、僕にはどうすることもできない。
女霊
最後だから。
え。
女霊
もう会えないから。だから。
良かった。
女霊
え。
ここに居続けるのはよくないって思ってたんだ。
女霊
もしかして、気付いたの?
知ってるよ。だから。
女霊
じゃあ。
安心して成仏して。
女霊
早く体に戻って。
男霊
え。
……もしかして、わたしのこと幽霊だと思ってた?
男霊
幽霊でしょ? だって光ってるし。
光ってるのはあなた、ほら今だって薄ぼんやり。
男霊
何言ってんの。だって。
お願い聞いて。
男霊
なに。
わたし、明日の朝退院するの。
体はもう回復してるのに意識だけ戻らないなんて、お医者さんも不思議がってる。
不慮の事故だったし、気付かないのは仕方ないけど、
仕事は目覚めてから復帰すればいいじゃん。
男霊
何の話。
警備の中島さん。
男霊
なんで名前。
私の手、触ってみて。
男霊
……僕は彼女に初めて手を伸ばした。すり抜けて揺らいだのは、僕の手だった。
こんな形で知り合ったのに、変に気になっちゃってるのもシャクだし。
隣のベッドで寝てる顔見るのも飽きたし、何より、生身の中島さんと喋りたいし。
わたし週一で通院するから。それまでには体に戻っててよね。
男霊
……あの、まだ展開早すぎてついていけてないんだけど。
はい。
男霊
明日、退院おめでとうって言えるように、頑張ってみる。
……はい。
男霊
ありがとう。
そう言って中島さんはふっと消えた。真面目だから、巡回の続きとかしてそう。
さて、明日の朝が待ち遠しいな。二つの意味で。
おしまい。