1142話(2018年2月17日 ON AIR)
「君とまたパジェロに乗って」

作・

葭本未織(少女都市)

出演・

平野 舞
大熊隆太郎

  
 

娘が料理をしている。包丁の音。

  

お父さん、ごはんできたよ。

うん。

ゴミ箱みたけど、最近レトルトばっか食べてるでしょ。

  
 

父親、居間からガレージへこっそり向かう。

  

わたしもさ、たまにしか来れないからさ。お父さんも自炊とかさ。

  
 

父親、ガレージに着くと、車のドアを開け、エンジンをかける。エンジンの音。

  

(鼻歌)

  
 

と、娘、ガレージへやってくる。

  

お父さん!

な、なんだよ。

  
 

父親、あわてて車から降りる。

  

また乗ろうとしたでしょ、車。

してないよ。

じゃ、なんで車に鍵ささってんの。

……(鼻歌)

お父さん、何回も言ってるけど、危ないんだよ。大丈夫だって思ってるかもしれないけど……
みんなそう思って、事故っちゃうんだから……!お父さんももう若くないんだから、

老人扱いするなよ!

そういうこと言うとこが老人だもん!

  
 

と、父親のケータイが鳴る。父親、取らない。

  

とらないの。

いいんだよ。

知ってるから。

え?

知ってるから。……今日、デートなんでしょ。

……

……お母さんが好きだった車でしょ……いやだよ。

……ごめん。

……(驚く)

そうだよな……よくなかったよな……。

お父さん、

たのむ! お前の車貸してくれ!

え?

市川さん、わかるだろう、3丁目の。
そこのお母さん、父さんと母さんと高校いっしょで。マドンナだったんだよ!
これから息子さんと一緒に住むらしくて。町内会の掃除で偶然再会したんだけど、

バスで行って!

  
 

娘、出ていく。父親のケータイが鳴る。

  

はい、市川さん!……あの、車の方がですね……。ええ、娘に止められちゃいまして……。
え、市川さんも?息子さんに?ははあ……。早いもんですね、卒業してもう50年ですか。
うちでもよく市川さんのことは話題に出てましたよ。
……はい、あなたは、うちの家内の、自慢の生徒でしたから。
いやあ、僕だってまさか先生と結婚するなんて思ってなかったですよ。
たまたまディーラーで再会して……僕が車を売っててね、彼女が買いにきて……
ふしぎですね、自分が若い頃は、老人は危ないから運転するなって、本気で思ってましたよ。
危ないからやめてって言ったら、「老人扱いしないでよ」、なんて妻に言われて……。
でも自分がこの年になると、じゃあこんな寒い中歩けると思ってるのかって
言いたくなったりして……。
じゃあ、バスでいきますか……墓参り。
どうもありがとうございます、わざわざ……。