1152話(2018年4月28日 ON AIR)
「じいじい、骨に変身」

作・

嘉納みなこ

出演・

坂本隆太朗
のたにかな子

  
 

仏壇前。チーンと鐘の鳴る音。

  
蓮子

おはようございます。お義父さん。今日も家族みんな元気で過ごせますように。

武彦

はいはい。私が死んでちょうど三か月になる。死んだ直後は葬式だ四十九日だ
悲しみがとまらないだとバタバタしていた家族だが、そろそろ落ち着きを見せてきた。
よかった。

蓮子

行ってきます、お義父さん!

武彦

この人は私の長男信彦(のぶひこ)の嫁の蓮子(はすこ)さんだ。

蓮子

おはようございます、お義父さん。昨日テレビで戦争のドキュメンタリー番組を見ました。
一刻も早く世界を平和にしてください。

武彦

願いが大きいなあ。ほかの霊に聞いたところによれば、我々の力というのは、
ものすごく頑張っても木の葉一枚を少し飛ばせるくらいらしい。

蓮子

お義父さん。智彦(ともひこ)のクラスでインフルエンザが流行っているようです。
智彦に移りませんように。

武彦

はいはい。

蓮子

お義父さん。PTAの役員が回ってきそうです。ほかの人に決まりますように。

武彦

だんだんささいな願いになってきたなあ。

蓮子

お義父さん。道に1000円落ちていますように。

武彦

せこい願いだ。

蓮子

お義父さん。明日起きたら20代に戻っていますように。

武彦

無理だ。

蓮子

お義父さん。信彦さんが無事退院できますように。

武彦

その年の秋、信彦が病気になった。発見が遅かったのと、まだ若かったせいで、
進行は早かった。信彦はその年を越せなかった。蓮子さんは次の春になっても、
信彦の遺骨を墓に入れることができなかった。

蓮子

お義父さん。私はどうして病気に気づくことができなかったんでしょうか。

武彦

蓮子さんのせいじゃない。私の言葉は、蓮子さんに届かない。

蓮子

お義父さん。パートに行ってきます。

武彦

蓮子さんは、仏壇に向かって、信彦の名前は呼ばなかった。

蓮子

お義父さん。外食がしたいです。

武彦

家計は苦しいようだった。蓮子さんは「うどんを食べたら寿命がのびる。」と
明らかなウソをついてスーパー玉出で買った一玉1円のうどんを智彦によく食べさせていた。

蓮子

お義父さん。財布にもう2000円しかありません。

武彦

その日、蓮子さんはパート帰りにコンビニに寄った。

蓮子

アイス食べたい。ハーゲンダッツじゃなくていいよ。ピノでいいよ。140円て。
高いよー。食べたいよー。

武彦

・・・あっ!100円!100円が落ちている!!蓮子さん蓮子さん!!・・・
風よ吹け!蓮子さんのもとへ行くんだ、100円玉!

  
 

ものすごくささやかな風が吹く。

  
武彦

動かんかあ。

蓮子

千円。

武彦

えっ。

蓮子

千円、落ちてる!

武彦

なんと!千円札も落ちていたのか!

蓮子

お義父さん。昔、1000円拾えますようにってお願いしたことありましたね。
叶えてくれたんですか。

武彦

まあ、そういうことになるのかな。

蓮子

ありがとうございます。

武彦

私が死んで火葬場で焼かれた時のことだ。お棺を出して骨をみんなで拾う時、当時五歳だった智彦がこう言った。「じいじい、骨に変身。」あんなユニークなことを言う子供を育てた蓮子さんだから、きっと大丈夫だろう。

  
  
終わり。