1163話(2018年7月14日 ON AIR)

「あの夏の冒険」

作・嘉納みなこ
出演・大熊隆太郎
東千紗都
本多
あれは小学五年生の夏。私たちは家族が寝静まった後、あのお屋敷の前に集合した。
幽霊が出るという噂の、廃墟と化したあのお屋敷。これは、私と彼だけの、あの夏の、物語。
樺島
お待たせ、本多さん。弟が腐ったカレーを食べたところ、血を吐いてしまってね。
遅くなったよ。
本多
いいのよ。私も宿題で1+1がどうしてもわからなかったものだから、今来たばかりなの。
樺島
さすが日本で一番アホといわれる本多さんだね。
本多
インクジェットプリンターは、飛ぶと思ってたわ。さあ、行きましょう!
樺島
でもちょっと僕、おびえるなあ。
本多
勇気だして!このお屋敷に入ったって言ったら、みんな樺島くんのこといじめなくなるよ。
樺島
そうだね!ここに入ったら呪われるなんて皆言うけど、この平成の世に呪いなんてないよね!
本多
あるわ。
樺島
あるの?
本多
川上くんはここに来てから気が狂ってしまったし、田代君は腕に人面瘡ができたのよ。
樺島
ええっ?
本多
その人面瘡、夜な夜なしゃべるらしいわ。
樺島
なんてしゃべるの?
本多
明日の天気をしゃべるらしいわ。
樺島
便利なんだかどうだか・・・。
本多
よし、行くわよ!
樺島
待って、本多さん!!
お屋敷に入る二人。恐ろしい音楽・・・。
樺島
・・・本多さーん。本多さーん。いない・・・。
本多
助けて・・・
樺島
ああ!巨大な食虫植物に体を半分食べられている!本多さん、僕の手につかまって!
本多
助かったわ。ありがとう。
樺島
なんだ、このお屋敷は。
本多
さ、行きましょう!
樺島
行くんかー。
コウモリの羽音。
樺島
これは、吸血コウモリだ!逃げろ!
本多
きゃー!
樺島
(走りながら)本多さん、大丈夫?
本多
私は大丈夫だけど、樺島君の背中にコウモリが50匹ぐらい止まってるよ?
樺島
ええ!!
本多
追い払わないで!記念に写メ撮ってるから!
樺島
わー!!
二人、とある部屋に逃げ込み、バタンとドアを閉める。
樺島
助かった・・・。
本多
いいえ・・・。このドア・・・開かないわ。
樺島
ええっ!
本多
酸素が薄くなってきた・・・
樺島
早い!
本多
私、人の50倍は酸素を吸うの・・・。アホだから・・・。
樺島
アホとは、何か?僕も苦しくなってきた・・・。なぜ開かないんだ。
本多
呪いよ。
樺島
呪い?
本多
このお屋敷に住んでいた金持ちの住人はね・・・ひょんなことから全財産を失い、
この部屋で首をつって死んだのよ。
樺島
どれぐらい前?
本多
二週間前。
樺島
案外最近だなあ。本多さん?本多さん!しっかりして!僕、本多さんがいなくなったら、
生きていけないよ!!ちくしょう!金持ちの霊め!開けろ!
ドアが勢いよく開く。
樺島
あれっ?
本多
あ、それ、引き戸だったんだね。押してばかりいたわ!
樺島
もう、本多さん!
本多
その夏、私たちは大切なことを学んだ。「押してダメなら引いてみろ」ということわざは
真実だということ。ことわざって、大事だね。
終わり。