1168話(2018年8月18日 ON AIR)

「赤い繭 -恋愛Edition-」

作・福谷圭祐
出演・坂本隆太朗
のたにかな子
日が暮れかかる。人はねぐらに急ぐときだが、俺には帰る家が無い。ふと足元に目をやると、
自分の左足の小指から、一本の細い糸が伸びているのに気がついた。
……運命の赤い糸、という伝説を聞いたことがある。俺は深く考えることもなく、
その赤い糸が伸びる方向へと、歩み始めた。
足音。
どのくらい歩いただろうか。突然、赤い繭が俺の眼前に現れた。
タマゴのような形をしているが、うっすらと人型にも近いように思える。
あのー、すいません。
ひゃっ! えっ、あっ、な、なんでしょうか。
……何をしているんですか。
な、な、なにをしているって、あたしは……。
なにか、お困りですか。
いえ、困っては、おりませんが。
女を包む赤い繭は、俺の左足の小指と繋がっていた。俺は、そのことを女に告げた。
そう、なんですか。
あの、あなたは、いつからそこに。
いつからって、そんなこと、急に聞かれても。
そこから、出たくはありませんか。
出たくはないかって、そんなこと、急に言われても。
俺は、自分の左足の小指から伸びる赤い糸を、引っ張ってみた。
しゅるしゅるしゅる。
あの、何をしているんですか。
あなたの繭をほどいています。俺の左足から伸びる赤い糸を引っ張って。
ど、どうしてそんなことするんですか。
どうしてって、だって、つながっているから。
や、やめてください!そんな、突然やってきて、繭を、ほどかないでください。
……すみません。
あたしの家が、なくなってしまうじゃないですか。
そこは、あなたの家なんですか。
ここがあたしの家かって、そんなこと、改めて聞かれても。あなたの家は、どこですか。
……俺に、家はありません。
そうですか。
はい。
申し訳ありませんが、ここに招き入れることはできません。
ええ、それはもちろん。
旅に出てはいかがですか。
旅?
あたしの繭に触れないでください。あたしの繭があなたと繋がっているのなら、
あなたが遠くに行けば行くほど、あたしの繭はほどけていきます。……そうしてくださいな。
俺が遠くに行けば行くほど、あなたの繭はほどけていく。
あなたは、歩いていくべきです。だからきっと、その赤い糸は、手ではなくて、
足から伸びているんだと思いますよ。
足音。
……俺は再び、歩み出した。俺には帰る家が無い。この足の小指から伸びる糸の先も、俺の帰る先ではなかった。しかし少なくとも、俺が歩めば歩むほど、女の繭は細くなり、やがてなくなってしまうだろう。だから俺はきっと、どこか遠く離れた場所で、あの女が暖かいスープでも飲める場所を用意しなければならないのだ。きっと、だから、俺は、歩く。
END