1171話(2018年9月8日 ON AIR)

「嘘つき。」

作・たみお
出演・大熊隆太郎
ゲスト出演・仲谷萌(ニットキャップシアター)
番頭
さりとて、よくもまあ、そんな嘘、お付きになったもんや。君ちゅう人は。
盗人
番頭はん! どうぞ勘弁しておくれやす。
番頭
あかん。
盗人
番頭はん!
番頭
真実はこうやな。腹はへったが、金はなく、それでつい、わしの目を盗み、
君は売りもんの饅頭を食うてしもた。
盗人
すんまへん!
番頭
さりとてや、そのあとが、かなわん。君は嘘をついた。
盗人
く・・・。
番頭
なんや、なんちゃうて嘘ついた。もっぺん言うてみ。
盗人
勘弁してください。
番頭
あかん。聞きたい。もっぺん聞きたい。ほれ、言うてみ。
盗人
く・・・。ま、饅頭に、
番頭
ほう饅頭に。
盗人
足がはえて、
番頭
足が。
盗人
手もはえて。
番頭
手も! はー、えらいこっちゃ。で。
盗人
毛もはえて、
番頭
毛も!ふさふさか。
盗人
ふさふさで金色です。
番頭
そらすごい。そうなるとあれか、まるで黄金の毛玉やな。
盗人
毛糸の帽子の一番てっぺんについてるような
番頭
ああ、ああ、目に浮かんだで。それでどないした、その黄金の毛玉は。
盗人
ビューと走っていきよりました。
番頭
追いかけたか。
盗人
追いかけました。店をでて、町内をかけめぐり、山をこえ、海をこえ。
番頭
海! 君、どないして追い掛けたんや。
盗人
泳いで。
番頭
ほう、泳いで。饅頭はどないした。泳いだか。
盗人
いえそれが、饅頭はまるで飛び石のように、海のうえをびゅーん、ぴゅーん、
走っていきよるんです。
番頭
おお、おお、目に浮かんだで。まっすぐ伸びる水平線に、黄金の饅頭が跳ねて跳ねて、
キラキラ輝いとる。
盗人
さすが番頭はん!その通りです!それはそれは見事な景色でした。
番頭
それで、どないしたんや。
盗人
スペインまでたどり着きました。
番頭
スペイン!!まさかのあれやな、闘牛場やな!
盗人
その通りです! 赤いマントを翻す闘牛士たちが舞い踊り、鼻息もあらく牛たちが、
土埃舞い上げて!
二人
オ・レ!
盗人
上陸したあっしは、ばっとマントを奪い取り、跳ねる黄金の饅頭をはっ!と包み込みました。
スタジアムは大歓声。指笛、足踏みが地球をゆらします。
二人
ま・ん・じゅ!、ま・ん・じゅ! あははは。
歓声。
番頭
おお、歓声が聞こえてくるで。
盗人
偉大な黄金の饅頭は、いま、スペインの闘牛場で、まるで太陽のように、
あがめ祀られております。・・・そやさかい、もう、ここ日本には・・・。
番頭
ああ・・・(番頭は楽しかった)。もしもわしに娘がいたなら、
君みたいな男とデートの一つでもさせてやりたい。
盗人
え?
番頭
それくらい、他愛ない話を一所懸命できるんはえらいっちゅうことや。
はー、楽しませてもろたで。
盗人
饅頭の代金は。
番頭
君の嘘でいただいた。なあ。今度は、正々堂々と嘘つきにおいで。楽しみにまっとるで。
盗人
・・・はい!おおきに!
おしまい。