1174話(2018年9月29日 ON AIR)

「彼の夏、そして・・・私の夏」

作・嘉納みなこ
出演・坂本隆太朗
のたにかな子
新潟県立鎌足高校の、一番景観がいいといわれる中庭の隅。そこに茂子は野球部員の栃木を呼び出した。栃木がやってくる。
栃木
あ。
茂子
栃木くん。来てくれたんだ。
栃木
・・・手紙、もらったから。
茂子
(小声)恋文だよ。
栃木
えっ。
茂子
ううん。なんでも。・・・すっかり秋だね。こんなに空が高いと、私の声なんて、この空に吸い込まれていっちゃうな。
栃木
・・・まだ九月の初めで、今日も37度あるけど。
茂子
・・・さすが栃木くん、ちゃんと天気見てるね。
栃木
いやまあ。
茂子
甲子園、すごかった・・・。
栃木
あ。でも、三回戦敗退だったし・・・。
茂子
そんなことない。
栃木
いや、実際敗退したし・・・。
茂子
私の中では、優勝だよ・・・。
栃木
中重さん・・・。
茂子
へへっ!
栃木
(心の声)なぜか彼女はこの時、背伸びをして、空を見たんだ・・・。
茂子
私、一生忘れないと思う。一回戦、島根代表おっこと高校との闘い、同点で迎えた九回裏の攻撃。ツーアウト23塁で、栃木くんの打順がきた。カーン!!栃木くんは、ホームランを打った!
栃木
中重さん・・・。それは、七番の斎藤だよ。
茂子
あれ?そうだっけ?あれ、栃木くんじゃなかったっけ?あれ?
栃木
その時俺はベンチにいたんだけど。
茂子
あ、じゃあ、斎藤くんが栃木くんにそっくりだったのかな。
栃木
・・・いや、全然顔ちがうけど・・・。
茂子
でね、心に残っているのは、二回戦だよ。九回裏の相手の攻撃。これを守りきれれば三回戦進出。でも場面は、・・・ツーアウト満塁。バッター、痛烈なセンター前ヒット!それを横っとびに取った栃木くん!試合終了!!
栃木
それは・・・6番の中井田だよ。
茂子
えっ?ウソよ!
栃木
ほんとだよ。
茂子
おかしいな。おかしいのは、私の頭かな。へへ。
栃木
(心の声)この時、彼女はまた、背伸びをして、空を見たんだ・・・。
茂子
私ピッチャーマウンドで戦う栃木くんを隣で支えたいってずっと思ってた。
栃木
俺、ライトなんだけど。
茂子
あれっ?
栃木
あれっじゃないよ。・・・ん?誰かこっちに来る・・・。
茂子
バスケ部の浜中くん!しまった!もう4時15分だわ!
栃木
どういうこと?
茂子
栃木くん、今すぐ消えて!!
栃木
どういうこと!
茂子
私、今から浜中くんに告白するの!
栃木
どういうこと!
茂子
バスケ部は今季、インターハイ準優勝・・・!ねらい目・・・!・・・へへ。
栃木
(心の声)この時、彼女はなぜか猫背になって、薄ら笑いを浮かべていたんだ・・・。
茂子
ああ、そうさ!あたしはイケてる運動部員と何が何でも付き合いたいんだよ!!
栃木
それで次は浜中を?
茂子
浜中だけじゃないさ!水泳部の佐藤、テニス部の小出、バレー部の吉田も15分刻みに呼び出してある!下手な鉄砲、数打ちゃ当たるさ!!
栃木
なんて女だ!浜中、来るな!!ここに妖怪がいるぞ!
茂子
浜中くん、行かないで!・・・どうしてくれんのよ!
栃木
俺と付き合おうぜ。
茂子
えっ??
栃木
俺も、彼女がほしいと思ってたんだ。
茂子
あたしでいいの?
栃木
女ならだれでもいいのさ。
茂子
あたしたち、似合いのカップルね。
栃木
さっそく手をつないで帰ろうか。
茂子
いいわね・・・! そういうこと、してみたかった・・・!
栃木
俺もさ・・・!
二人、笑いながら去る。
終わり。