1178話(2018年10月27日 ON AIR)

「壁ドンでいけた」

作・嘉納みなこ
出演・大熊隆太郎
のたにかな子
・鍋島先生―越境小学校3年3組の担任。男。
・軽井先生―同小学校6年2組の担任。女。

ここは埼玉県にある越境小学校。この小学校を卒業した子供たちは、
近くにある逆境中学校にだいたい入学することになっている。
夕暮れ。学校のチャイムの音がなっている。
理科準備室に鍋島先生がいる。軽井先生が入ってくる。
鍋島
あ。
軽井
どうも。
鍋島
すいません、お呼び立てして。
軽井
いえ。ちょうどテストの採点に飽きたところでしたから。
鍋島
それは、つらいなあ。
軽井
あまりにめんどくさいんで、全員100点か0点にしてやろうかと思います。
鍋島
休んだ方がいいですよ。
軽井
肩もこってるし。
鍋島
もみましょう。
軽井
ありがとうございます。・・・あっ、やめてください!そこは肩では・・・ああっ、ああっ!
鍋島
肩ですよ!誤解されるような声出さないでください。いくらラジオドラマで見えないからと言って。
軽井
すいません、つい。ストレスが溜まって・・・。
鍋島
おそろしい人だ。だがそこがたまらない・・・。
チャイムの音。
鍋島
そろそろ返事をいただけませんか?
軽井
・・・。
鍋島
僕はもう、三年待ちました。その間に僕は30になり、あなたも30になった。
軽井
・・・。
鍋島
お互いいい歳です。僕に決めたらどうですか。
軽井
・・・。
鍋島
軽井先生!
軽井
あ、すいません、寝てました。
鍋島
寝てたのかよ!!・・・やめましょう。このラジオドラマは三分しかないんです。
軽井
そうですね、急がねば・・・。では、申し上げます。
鍋島
はい。
軽井
確かに、鍋島先生は結婚相手として悪くはないんです。収入もまあ、最低ラインはあるし、外見だってまあなんとか。性格も鼻につくところはありますが、ギリギリ耐えられる。
鍋島
そこそこ僕は傷ついてるわけですが、だったら、
軽井
でもなー、決定打がないんだよなー。
鍋島
決定打?
軽井
ほんとすいません、本人の前でいうことじゃないんだけど、あなた、これってのがないんだわ。だから私も三年も返事できないでいたんですよ!
鍋島
すいません。
軽井
私だってね、正直結婚したいんです。親からの突き上げもあるし。でもね、
一生で一度の結婚、妥協したらかわいそうじゃないですか、私が。ほんのわずかでもいい。
鍋島先生のこといいなと思って結婚したい。でもそのちょっとが今全くない。
鍋島
僕の心の傷がどんどん深まるわけですが・・・。わかりました!
僕のいいところをみせてやりますよ!
軽井
お願いします!
鍋島
実は僕、マジックができるんです。ほら、ここに一枚のカードが・・・。
軽井
私、マジックはピンとこないな。
鍋島
やめようね。じゃあ、踊ります!!♪ヘヘイ、ヘイ♪
軽井
(叫び)ダサイ!!
鍋島
・・・お手上げだ・・・!
軽井
えっ。ほかにないんですか、いいところ!
鍋島
ない・・・!
軽井
そんな・・・!結婚したいのに・・・!
鍋島
僕だって・・・!
軽井
なんかあるでしょう、30年生きてて、マジックとダンスだけって・・・。
鍋島
俺はつまらない人間・・・!
軽井
そんなことないよ、なんかあるって。歌がうまいとか、壁ドンがうまいとか。
鍋島
壁ドン?
軽井
ちょっとやってみましょう。私、壁際にいきますから・・・。
あ、なんかドキドキしてきたかも。
鍋島
いきますよ。
鍋島先生、壁ドンをする。間。
鍋島
(耐えきれず、ちょっと笑ってしまう。)
軽井
もー!!真顔でいてくれたら今いけそうだったのに。
鍋島
真顔、真顔・・・。
間。チャイムがなる。
軽井
あ。・・・もう。
鍋島
・・・すいません。
軽井
いいんですけど。・・・戻りましょうか、職員室。
鍋島
はい。
軽井
今度、映画でも行きますか?
鍋島
いつにします?!!!
終わり。