1185話(2018年12月15日 ON AIR)

「天六の女神」

作・嘉納みなこ
出演・坂本隆太朗
佐々木淳子(劇団太陽族)
午後10時、天六交差点。自動車の行き交う音の中に、明里の溜息が聞こえる。
明里
俺は何のために生きているのだろう・・・。会社帰り、天六交差点で俺はいつも考える。そして、味気ない夕食をとるため、ファーストフードの店に立ち寄る。窓際には行き場のないサラリーマンたちが並んでいる。俺もその一人。隣に座っているOLは、本を読んでいた・・・。
桑井出
(小さく笑う)
明里
・・・面白い本でも読んでいるのだろうか・・・?
桑井出
(かわいらしく笑っている)
明里
俺は彼女の横顔をそっと見た。28くらいだろうか?上品な横顔だ。
桑井出
(笑っている)
明里
癒される・・・。
桑井出
(少々下品な笑い)
明里
癒されなくなってきた。
桑井出
(人目もはばからない笑い声)
明里
よっぽど面白い本なのか・・・?
桑井出
(本を閉じて)あー、つまんなかった。
明里
じゃあなんでそんなに笑ったんだ・・・。まあいい。俺はポテトをかじり、
女は別の本を読みだした。
桑井出
(忍び泣き)
明里
えっ・・・?
桑井出
(すすり泣き)
明里
泣いてる・・・。悲しい本を読んでいるのか・・・?
桑井出
(泣きながら)大根は・・・2~3センチに切り、エビはつぶしてたたく・・・!
明里
料理の本?(見て)「10分でできるあっさりおかず」。料理の本?!
桑井出
(大泣き)
明里
ちょっとちょっと!!
桑井出
えっ。
明里
あっ。ええと・・・なんで泣くんですか?それ料理の本ですよね?
料理の本に悲しみってありましたっけ?
桑井出
・・・エビがかわいそうになってしまって・・・。
明里
ああ、なるほど。
桑井出
つぶしてたたくなんて・・・!
明里
なんて心の美しい人なんだ・・・。
桑井出
いえ、そんな。
明里
あっ、腕に蚊が止まってますよ!
桑井出
おら!(たたく)
明里
そこは叩くんかい!ああ、すいません、つい大阪弁が・・・。
桑井出
いえいえ。よく言われるんです私、支離滅裂だって。多分私の中に、
たくさんの人格がいるからだろうな。
明里
えっ、そうなんですか?
桑井出
まさか。
明里
ウソなんかい!ああ、また(大阪弁が)!
桑井出
うふふ。漫才って楽しいですね。
明里
漫才?僕はいつの間にか漫才に巻き込まれていたんですか。
桑井出
そのようです。
明里
まいったなあ。
桑井出
参りましたね、明里さん。
明里
どうして僕の名前を?
桑井出
毎朝フジサワビルのエレベーターで一緒になりますよ。
明里
えっ。もしかして会社、同じビルですか?
桑井出
そのようです。同僚の方と一緒にのってらっしゃったとき、明里さんて呼ばれてたから。
明里
そうだったんだ。
桑井出
本当に毎朝一緒になるんですよ・・・
明里
不思議ですね。
桑井出
それは、私があなたのストーカーだから。
明里
えっ・・・???
桑井出
うへへへ!!
明里
うわあ!
桑井出
ウソですよ。
明里
ウソなんかい!ああ、また!!
桑井出
ウフフ。
明里
次の日、エレベーターで、ほんとに彼女に会った。そして一年後にはなぜだか結婚していた。
プロポーズした覚えもないのに、結婚していた。不思議なこともあるものだ。
終わり。