128話(1998年9月11日 ON AIR)

「ビデオとラジオ」

作・岩崎 正裕
さびれた商店街の電器店。夕暮れの雑踏。
シャッターを降ろす音。
9月11日、金曜日。ちかごろは近所にできた大型安売り店の影響で、売上がガタ落ちだ。今日の売上はといえば、1万円にも満たない。単3の乾電池、60Wの電球、それに蛍光灯…。全く親父も厄介な店を残してくれたものだ。
シャッターを叩く音
今晩は。いてるんやろ、お兄ちゃん。ちょっと、ここ開けて。
夜8時を過ぎて、店の片付けをしていると、さっき降ろしたばかりのシャッターを叩く音がした。…はい。
シャッターを開ける音
今晩は、久しぶり。うわ、相変わらずゴチャゴチャしてるなぁ。もうちょっと並べ方とか考えたら。
…悦子
何よ、変な顔して。…どう、元気?
…お前、なんやいきなり。
いきなりって、妹の私がここへきたら変?
いや、そんなことないけど…。
そやんなぁ。…ここ座っていい?
ああ…。お前、どないしとったんや。電話も全然通じへんし、手紙出しても戻ってくるし。
あれ、そやった?ごめんごめん、部屋変わったん言うてなかった。
まだ、東京にいてんのか。
うん。…さっき駅のとこで河田のおばちゃんに会うたよ。
…何か言われたか。
うん。「何か頑張ってるみたいやねぇ」って。…顔こわばってはったけど。
そら、そうやろ。この商店街中うわさになってるからな、…お前のこと。
え、そうなん?
…駅前にレンタルビデオ屋出来とったやろ。あそこのお前のビデオ、いつ行ってもレンタル中の札ついてるわ。
へぇ、うれしいな。…お兄ちゃんは見てくれた?
ああ…見た。
どうやった私、きれいやった?
きれいもクソもあるかい、あんなもん。
ああ?お兄ちゃん、やっぱり私がAV出るの嫌なんや。
当たり前やろ。どこに妹のハダカ喜んで見てる兄がいてんねん。
そういう趣味の人もいるよ。
…店の売上落ち込んでるのお前のせいや。
ハハッ、それは言い過ぎ。あ、そや、私のビデオ、店で流したら?ダビング承りますとか云うて。
アホか…。お前、あんなこといつまで続けるねんっ。
お兄ちゃんがマンションの家賃払ってくれるんやったら、すぐにやめてもええよ。
もうええ。…話にならんわ。
あのなぁ、お兄ちゃん。実は今日、私お願いがあって来たんやん。
…金やったらないぞ。
違うねん。…あのな、これ鳴らへんようになってしもてん。
…何や、それ。
私が中学入るとき、お兄ちゃんがプレゼントしてくれた奴。
…何や、こんなラジオ、まだもっとったんか。
修理に出したらどれくらいかかる?
ちょっと貸してみぃ。
あ、今直してくれるの?
…電池のフタのとこ、これ割れてるけど、落としたんか。
うん。落としたって言うか…。投げつけてん。あんまり悔しいから…。
何でや。
ケンカしてん、彼氏と。私のこと分かってくれへんから、投げつけたら、あいつよけるから、壁にぶつかって、壊れてん。
…まぁ、ええわ。預かっとく。
…修理に出してくれる?
ああ、直しとく。…住所書いとけ、直ったら送るから…。
うん、いい。また取りにくる。…いつ出来る?
2週間は見といてもらわなあかんな。
うん、わかった。
そやけど、直らんかったらしゃあないぞ。
うん、直るよ、絶対。…絶対、直る。
…ほんで、お前。その男とは別れたんか?
うん。そっちはもう寿命かな。多分、修理きかへん。
シャッターの降りる音
10月×日、×曜日。あれから1カ月がたつけれど、修理できたラジオは、まだ手元にあるままだ。今日の売上も1万円に満たない。懐中電灯1個、イヤホン、60Wの電球…。一体この先どうなるのか。そろそろ冬が近い。
シャッターを叩く音
夜の8時も回って商品の入れ替えをしていると、シャッターを叩く音がした。
お兄ちゃん、いてる?私、悦子。ラジオ取りにきたんやけど、直った?
シャッターを開ける音
おう、待っとったで。まぁ、中はいれ。
直った?
ああ、バッチリや。
(外に向かって)ちょっと、汚いとこやけど、入って。
え?誰かいてんのか?
うん。私らも直ってん。壊れそうやったけど修理してみたら…紹介するわ。
ラジオのチューニング音。音楽流れて…。
おしまい