14話(1996年7月5日 ON AIR)

「七月の海風は 波のにおい」

作・水こし 町子
どうして 恋人どうしが
海を見るのに
どのカップルも
ものさしで 計ったように
あいだを空けて 座るのかしら
不思議だったけれど
やっぱり 私たちも
同じように あいだを空けている
須磨の海
波打ちぎわにそった 遊歩道
夜の空を見る
海を見ているのに
本当は 海を見ていない
いつも 海へ来るのに
海を見ている ぼくが
どんどん
気持ちが 海からはなれて
そう そう
わたしも海を見ながら
熱帯魚売場で見た
エンゼルフィッシュが
一匹だけ 仲間から
外れて泳いでいた
いじめられて いるのか
一匹でいるほうが 好きなのか
どちらでもいいような ことばかり
連想ゲームを
一人でしているように
この遊歩道にすわって
お互いの 顔ではなく
平行線に 海を見ながら
いろんなことを
思っているんだね。
あなたは
わたしのことを 好きかしら
心の中で
いっぱい
尋ねているんだけれど
スバルと
オリオンの星座しか
知らないのに
天文部に入った
夏なのに
山の上の
夜は寒くて
震えながら 流れ星を
いくつも 見たんだ
流れ星が
消えるまでに
なにか 願い事をした?
アフリカに行きたい
サハラの砂漠?
どうしてわかった?
ねえ
砂浜で 花火しない?
子供の時
線香花火を もたせてもらうと
うれしかった
線香花火の 最後の赤い玉が
ポトンと おちるまで
じっと みていると
悲しくないのに
なんだか 泣きたくなって
友達と 何年も前に
港の花火大会を
六甲山から みようって
空の 暗くなるのを
展望台で 待っていた
町のひかりの中
花火は
小さな ボールのかたちになり
港のあたりを
じっと目を こらさないと
見つけられないほど
山の上から見る花火
ぼくが 思っていたことと
まるで違っていた
いつも 空いっぱいに
もっと大きいと
思い込んでいたんだ
風が
波を抱いて
沖から吹いてくるわ
寒くない?
君の 長い髪の毛
今日は
波の においがする