157話(1999年4月2日 ON AIR)

「ハルノヒ」

作・深津 篤史
ひとしきり、強い風が窓をゆらした
おきてたの?
うん、あれ?
起こしちゃった?
ううん、何時?
5時すぎ
ふうん
ねてなって
のど、かわいた
うん
男立って台所の方へ、水道の音
(台所の男に)始発で帰んの?
いや(戻ってきて)水でいい?
いいよお
…何?
のませて
自分でのめって
うん(女、水をのんで)おきてるの?
いや、…あ、こら
朝から元気
そりゃ…
若いね
まだ30だし
長いよね
え?
私達
うん
一ヶ月ぶり?
だいたい、そうかな?
時々
もう、こないんじゃないかって思う。
そんなことない。
あたし、死んでもわかんないでしょ
おい
怒った?
いや…
まだ元気
さわってるから
する?
ええと
遠くで鳥の鳴く声
カラス
何だかなあ
商店街、近いし
あのさ
風の音。泣き声みたいだなって思って
何それ
バンシーって知ってる?
え?
西洋の妖怪?いや妖精?
こわい話?
うーん
話して
きれいな女の人の姿形をしててね。夜、みんなが寝静まった頃、家の周りを泣きながら飛んでくんだ。すると、近いうちにその家から死人がでる。まあ、バンシーが泣くと死人がでるんじゃなくて、死人がでるからバンシーが泣くって言った方がいいかもしれない。家の人に知らせにきてるわけだし。うん。死人がでるよお、悲しいよおって。
遠くで鳥の鳴く声
あれ、ねちゃった?
俺、見たような気したんだよね。女の人が泣きながら走ってく。ここ、7階だろ?
ふたたび風の音、強く、ひとしきり
…おい、ちょっと、おい!
いや
ごめん、ねちゃった
なあ、このマンション、何人ぐらい住んでると思う?
知らない 100人ぐらい?
そっか
どうしたの?
ううん
ふたたび風の音
バンシだっけ?
あ、うん
泣くと、どうなるの?
どうもしないよ、マンションだし
ふうん
すっかり朝だね
ねえ
春一番って唄、あったよね
ああ
風がふいている。静かに音楽