167話(1999年6月11日 ON AIR)

「おいしい おいしい ああおいしい」

作・深津 篤史
トビラを開けると雨の音。
おかえり
うん
男は食器を洗っている
急に降ってくるんやもん
うん
タオル、タオル
カッパ着てけゆうたやろ
カッパなあ
カゼひくで
アホはカゼひかん
まあ、せやな
もう店じまい?
この雨やしなあ、酔客もおらんやろ
静かなもんやな
ちょっと早いけど店じまいや
ほうかあ
ラーメン食うか、いつものやつ
うーん、どうしよっかなあ
あれ、珍しいな
うん、珍しい
お前、髪の毛ビショビショやないか
男、洗う手を止めた
今、気いついたんか
そらお前、仕事中やし、早よふけ
カッパやからな
何やそれ
おもんないか
わからんわ、早よふけて
ふいてくれ
自分でせえ
セクシーか
セクシーやあるかい
おっちゃん、やもめ長いんやろ、サービスや
おっちゃん言うな、まだ33や
立派なおっちゃんやないか
33でおっちゃんか
ふいてくれ
しゃあないなあ
男、女の頭をふいてやる
やさしくして
あほか、はいあがりや
おおきに
何や
うっ
女、カウンターにつっぷした。
今度は何や
カッパかしな
あほ
頭かわいたら力ぬけた
しようもない事いうとらんと
チューせえ
何言い出すねん
お姫さんに王子様のチューで目え覚ますもんや
お前、カッパか白雪姫かどっちかにせえや
どっちもや、王子様にしちゃふけとるけどこのさいガマンしたる
あんなあ
ここやここ、頭のてっぺん ここにチューせえ
何でやねん
早よせえ、死ぬど
ほんまに
男、キスをした。
ええにおいしたか
ラーメンのにおいやな
色気もへったくれもないな
さ、おきいや
……
何やねん
ありがとう
何や
ここは見つめあうシーンや
見つめあうて
貴方のおかげで私はふつうのお姫様にもどることができました
ふつうのお姫様て、何やねん
ええとこのお姫さんとちゃうしな
うん
ええとこのお姫さんはラーメン屋では働かん
うん
明日から新しい子くるんやろ
ああ、そやな
こないだ面接きとった茶髪のにいちゃん
まあな
色気ないなあ
そのぐらいがちょうどええねん
さみしいか
さみしいことあるか
うちはさみしい
あほ
おっちゃんが顔赤くしてもかわいい事ないな
ほっとけ
ラーメン作れ、いつものやつ
最後やしチャーシューおまけしようか
いつものやつでええ
うん、珍しい