169話(1999年6月25日 ON AIR)

「真夜中の恐怖」

作・四夜原 茂
真夜中のホテルの一室である。
ねぇ…。ねぇったら……。
ん?
起きてちょうだい。
なに?
音がするのよ。
どんな音?
誰かいるんじゃないかな、そこに。
……まさか。
でもさっきからずっとカサカサ音がするのよ。
何も聞こえないよ。
さっきまでは聞こえてたのよ。
ふうん。電気つけてみようか?スイッチはどこだったかな。
…やめて。
え?
お願い。あたし化粧落としちゃってるのよ。
ああ…じゃあシーツを頭からかぶってたらいいよ。
…わかったわ。ちょっと待って…(きぬずれの音)…いいわよ(こもった声)。
でスイッチはどこだったかな…。
ちょっとぉ!どこ行くの。(こもった声)
どこって、部屋の電灯のスイッチは、たしか、入り口の扉のとこだったろ?
ひとりにしないでちょうだい。
……ええ?
なんか私、胸さわぎがするのよ。何か恐ろしい事が起こるんじゃないかって…。
ふふ。何も起こりゃしないよ。
…なに?
え?
ほら、これ、何の音?
お菓子が入っているふくろがカサカサガザガザ音を出しているようだ。
なんだ…?あっちにはたしかテーブルがあったよな。テーブルの上には…。
飲みのこしたカンビールが2本と…。
ピーナツが入ったふくろ?
な、なにか居るのよ。そこに。
とにかく電気をつけてみよう。
つれてって、私も。
ああ。
カサカサ、カサカサ。
その時、いきなり「ガン」と重いものをヒザでけり上げてしまう音。
あう!
ど、どうしたの?!
……あ、あ、あ、いててて…。何だこりゃ。スーツケースがこんな所に…。
スタスタ歩いちゃあぶないわよ。這って行きましょう。
あ、ああ、そうしよう。れ。これ…これは何だ?
なに?
小さな布きれみたいなものが…。
布きれ?……あ、これ、あたしのだわ。
ナミエの?
そう。あなたが投げたのよ。ポイッて。ふふふ。
あ、そうだっけ?
前と後ろがよくわからないけど…まあ、いいか。よいしょっと…。
パチンとゴムが体に当たる音。
すると、オレのも、このあたりに落ちてくるんじゃないかな。
あ、これじゃない?
……これ?似てるけどちょっとちがうんじゃないかな。
なんか小さすぎるような…。
間。パチンとゴムの音。
あれ?
下腹部がしめつけられて苦しいよ。
うふふふ…。
ふふふ、ははは。
逆だったみたいね。
ま、いいか。
ま、いいわよ。
カサカサと音がする。と、あらぬ方から、もうひとつの音が重なる。コンビニの白いビニール袋の中で何かがガサガサやりはじめる。
ちょっ、ちょっと。どうなってるの。あっちにも何か居るんじゃないの?
ええと…。
何やってるの?早く電気をつけましょうよ。
どっちだったかな?
どっちって?
だからドアはどっちだったっけ?
………………私達、迷っちゃってるわけ?
だって、今、手さぐりでいろいろやってる間にぐるぐる回っちゃっただろ?だから。
とにかく、まっすぐ行ってみましょうよ。壁にたどりついたら、壁をつたって、ドアまで行けるわよ。
まっすぐって、どっちがまっすぐなの?
どっちでもいいから進むのよ。
わかったよ。
間。床をはうような音。
あ。柱みたいなものが。
柱?そんなものはなかったわよ。
でも、ほら。床から円柱の柱がこうずっと上まで
男、ガンと後頭部を打ちつける。
ててて。
だいじょうぶ?
な、なんなんだこれは?
男がまさぐってるうちにカンビールをたおしてしまう音。
なに、今の。カンビールがたおれたの?
うん。テーブルの所に来ちゃってるんだよ、オレ達。
ガサガサガサと大きな音がする。
二人、とにかくその場をはなれようと、バタバタする。
はーはーはー(息づかい)
はーはーはー(息づかい)
(つばをのみ込み)な、なんでよりによって、テーブルの方に行っちゃうわけ?
知らないよ、そんな事言われたって。
で、ここ、ここはどこなの?
ええとね…あ、ドアがあるよ。ほら。
……ほんとだ。
ドアの左側にスイッチが…あったあった。ありました。じゃ、電気を…。
待って!
え?
どうしよう。シーツ持ってくるの忘れちゃった。
はー?どうでもいいじゃないか、そんなもの。
どうでもよくないわよ、素面なのよ私。
……素面だと…すごいの?
かなり。
ガザゴゾガザゴゾと音がする。
どっちが怖いかな。今、電気をつけるのと、またベッドまでもどってシーツをとってくるのと。
いい勝負だと思う。
…ドアを開けて逃げるってのはどうだろう?
このかっこうで?
……。
電気にしましょう。
え?
こうなったらもう、どうでもいいわ。やぶれかぶれよ。
いいのか?
いのよ、もう。いくら秘密にしようと思っても、いづればれちゃうんだし。さ、スイッチ押して。
そんな…。
いいから、押すのよ。
わ、わかった。押すよ。
間。スイッチをペチと押す。
換気扇か、エアコンがゆっくりと動き出す。
おわり