201話(2000年2月4日 ON AIR)
「コラージュ」

作・

平野 舞

  
 

【コラージュ1(僕の一日のはじまり)】

  
僕はどこにゆくんだろう――――

  
 

サンドストーム、激しく

  
めくれかけた唇の皮を、なんとなくなめる。
外では、ずいぶん昔から続いているサンドストームが
今日も変わらず吹き荒れている。
窓から見えるものといえば、
幾重にもたたみかける砂の風、
黄色い視界、
ぶあつい大地。
それだけ。 ここは、そういう世界。
 

僕は天体望遠鏡をのぞくのが、好き。
ザラザラとした黄色い空間が、丸いフレーム一杯に広がる。
ほら、まるでこの世界は、頑丈でうすっぺらな
黄色いカラでくるまれた、大きな卵だ。
深く、しんとした宇宙にぽっかりと浮いている、大きな卵。
その中で僕の一日ははじまり、で、終わっていく。

  
 

電波をチューニングする音、ノイズ、ノイズ

  
僕の日課。ここではないドコかに向かって、電波を送る。
それは僕の言葉を連れて、サンドストームをくぐりぬけ、
暗い空へとダイブする。
そんで目をつぶるんだ。
きっとその時僕は、宇宙にいる。
何にもなしのあそこに漂っている。
ここではないドコかに向かって漂っている。

  
 

【コラージュ2(コラージュ)】

電波をチューニングする音、ノイズ、ノイズ

  
アロー… アロー… 聞こえますか… アロー… …アロー…

  
 

チューニング、ノイズ、サンドストーム

  
アロー、ハウアウユウ、聞こえますか… 聞こえますか…

………アロー……… 居心地はいかが?

えっ?

ザーッというノイズ音

「おはようございます」 

「おはようございます、うわー、めっちゃキンチョーするわ」
 (ノイズ音)
「あー、もしもし?あのー、ちょっとおくれます。すいません、
はい、じゃ」 
 (ノイズ音)
「(時報の音)」
 (ノイズ音)
「おばあちゃん」
 (ノイズ音)
「(野球のナイターの音)」
 (ノイズ音)
「えーと、この前、映画の撮影でホンコンに行ってきたんですけども」
 (ノイズ音)
「ギャハハハハハー」
 (ノイズ音)
「私、子供のころ、タバコのフィルター集めんのシュミやったんですよー」
 (ノイズ音)
「0・件デス」
 (ノイズ音)
「ゴキブリ?」
 (ノイズ音)
「ギャハハハハハー」
 (ノイズ音)
「(ひぐらしの声)」
 (ノイズ音)
「このあと、10時50分から!」
「プリーズ、リッスン!!」
 (ノイズ音)
あなたはドコにゆくの?
 (ノイズ音)
あれ?
 (ノイズ音)
あれ?
 (ノイズ音)
あれ?
 (ノイズ音)
「お待たせしましたぁ、んじゃどっから行きますか」
 (ノイズ音)
「どこから行きましょう?」
「いや、どこから行くというよりも、じゃ、どこかに行きましょうか?」
 (ノイズ音)
「どっかに行きますか?」
「どこにします?」
「どこでもいいです」
「でも…」
ドコかってどこ?――――
 (ノイズ音)

あなたはドコにゆくの?

どこにもいかないよ。

いいえ。いつかはドコかに行かなければ。卵はずっと卵のままではいられないもの。

だったら、僕はどこにゆくんだろう。

  
 

【コラージュ3(僕の一日のはじまり)】

  
そしてサンドストームが終わり、天体望遠鏡で僕は君を探しはじめる。けど、そこにはやっぱり何もなくて、ただ小さなカケラがたくさん浮いていた。
真っ暗な空にチラチラと光る、あれは、何?
僕はずいぶん長いこと考えて、ハッとする。
そっか。そういうことか。そうだったんだ。
君も、君の体も、君の言葉も、そこにあるんだろう?
小さなカケラになって、そこにいるんだろう?
ここではないドコかは、ソコにもココにもアソコにもドコにでもあるって、そういうことなんだろう?
卵のカラはひびわれてはがれおち、足もとに降りつもる。
それをそっとふみしめて、小さな乾いたその音を、なつかしいとふと感じた。

僕は、ゆるやかに走り出す。鼓動の脈打つ、そのスピードで。