202話(2000年2月11日 ON AIR)
「冬の花火」

作・

深津 篤史

  
 

車のゆきかう音。

  
いつになったらとびおりるんですか

ずっとみてたんです。20分くらい

あ、うん。

さむいね

ああ

ここからじゃ死ねないかも

いや

どうしてビルの屋上とかにしないんですか

ビル

陸橋じゃだめですよ。運良く車にひかれたりとかしない限り

運良く

タイミングが必要ですよね

ああ

トラックの荷台におちたりしたらそれこそはずかしいし

うん

落ちたショックで気を失って、目が覚めたら九州とか

北海道とか

寒いところはいやだなあ

君は

ねえ、何してるんですか

俺、外回りの仕事やってんだけど

職業なんかきいてません

浄水器売ってる。一家に一台浄水器。トリハロメタンは危険です。

トリハロ?

発ガン物質。水のんでガンになってちゃ洒落にならないでしょ。

うん

君んちにもどう

あのね

犬ひいちゃってさ

ここで

ここって

ちょうどこの陸橋の下あたり。雑種だったと思うんだけど、茶色の。なんで渡んのかな。

田舎の山道じゃないんだし、車が危険だってことぐらい都会のノラ犬ならわかりそうなもんだろ

うん

気になってさ

どっちが

ノラ犬のその後、それとも危険を承知で国道を渡る犬の気持ち?

どっちだろ 考えてなかった

たぶん死んじゃったんでしょ

うん

この辺、車通り多いし

何度も引かれてせんべえみたいに

うん

まあ、こう暗いと見えないんだけど

ねえ、何が気になってるの

うん

犬好き

いや、好きじゃない。訪問販売やってるでしょ。犬には苦労してる

じゃあ、何で。ちょっとしたセンチメンタリズム

いや、何となくひっかかっちゃって

ふうん

けどなんか、どうでも良くなってきた

私ね

うん

今朝、彼氏が死にました。

交通事故じゃないよ

それは、ええと

突然死だって。最近じゃ20代にもそういうのあるんだって

うん

私はとびおりにきたんじゃないよ

ここからじゃしねないもの

じゃあ

別れるつもりだったの

彼氏と

うん。ばかみたいだね

ええと

さよならの手紙かいたんだけど必要なくなっちゃった

それ

うん

  
 

ライターを灯す音

  
どうでもいい事だよね

  
 

紙が火にはぜる音

  
どうでもいい事なのに、ねえ

ああ

花火みたい

  
  
-了-