228話(2000年8月11日 ON AIR)

「思い出花火」

作・花田 明子
登場人物
一子(いっちゃん)…女
健(けんちゃん)…男
人込みの中。
始まりは、一発目の花火。
「ヒュルルー、ドン。パパパーン」
一子
うっわーあ。
おっははあー。
再び、花火。
一子
いいなあ。
夏だなあ。
一子
ねえ、けんちゃん、けんちゃん。今の花火ね。
うん。
一子
こう、ほら、こうなって。
うん。何か何かすごいなあ。
一子
うん。
小学校以来だよ。
一子
え?何?
小学校以来。花火なんてさ。
一子
ああ。
学校であったんだよ。グランドで。
一子
ああ、あったね。
いやもちろん、こんなに豪華じゃなかったけどさ。
一子
うん。
20年以上前だ。
一子
うん。
もちろん、こんな格好でもなかった。
一子
その浴衣似合ってるよ。
そりゃまあ、モデルがモデルだからさ。
一子
日本人体型だもんね、けんちゃん。
どう言う意味だよ。
一子
いやいや。お似合いだってことですわ。
だったら余計なことはなしだ。
一子
うん。
ちなみにいっちゃんもそれなりに着こなしてる。
一子
それなりに?
悪くないということだ。
一子
ちょっとちょっともっと気の利いたほめ方してよ。
あ、あそこ開いたぞ。
一子
え?
あっちの橋のそば。あそこに行こう。あっちの方が見やすいぞ。
一子
うん。
浴衣姿の二人、下駄をからりからりとならしながら、歩く。
俺さ、花火にはちょっと思い入れがあってさ。
一子
ああ、うん。
俺、カギっ子だったんだよ。小学校のころ。
一子
(笑う)
何?
一子
あ、ごめん。最近カギっ子って言わなくなったなあと思って。
ああ、そう言やそうだね。
一子
うん。あ、ごめん、で?
うん。両親が店やっててさ。
一子
八百屋さんだっけ?
今はコンビニになってるんだけど。
一子
ああ。
それでさ。全然店を休んでくれないんだよ。
一子
ああ、うん。
だから夏休みもどこかに旅行に行く予定もないし、普段は家に誰も居ないしで。
一子
うん。
だから学校の行事は何よりも楽しみだったんだ。
一子
ああ…。
うん。…花火大会もその一つでさ。
一子
うん。
小学校三年の時だったかなあ。
一子
うん。
急に雨が降ってきちゃって中止になったんだよ。
一子
ああ。
最初の花火が上がって10分もしないうちだったと思う。
一子
うん。
ものすごい雨が急に降り出して。
一子
うん。
雨がすぐに止むと思ったんだよ。
一子
…止まなかったの?
うん。雨はちっとも止む気配がなくて。
一子
それで?延期になったの?花火大会。
いや。それがグランドの関係もあるし、何より置いてあった花火がその雨でダメになっちゃったんだ。
一子
ああ。
それでその年の花火大会は終わり。
一子
うん。
たった10分で終わりになっちゃったんだ。
一子
へーえ、ちょっと寂しい話だな。
うん。俺さ。当時、夏は短パンにランニングの野球少年だったんだ。
一子
あら。
うん。それもかなりあきらめの悪い野球少年でさ。
一子
うん。
もう、今年はこれでおしまいですねって。みんなが片付けはとりあえず明日にしましょって、帰って行く雨の中、ずーっとずーっと10分ぶんの花火の残骸を見てた。
一子
ふうん。
俺の夏を最後まで見届けるぞって何かそんな気分だったのかも知れない。
一子
うん。
終業式の次の日だったよ。
一子
何だ、じゃあ夏休みは始まったばっかりじゃない。
そう。でもね、俺にはその花火だけが夏休みの唯一のイベントだったんだ。
一子
ふうん。ちょっときゅっとする話だね。
そうか?
一子
うん。
でも今日のは違うな。
一子
え?
今日の花火は夏の最初で最後のイベントじゃなさそうだ。
一子
(笑って)ああ、何言ってるの。
いっちゃん、どこか旅行にでも行きたいね。
一子
(笑いつつ)いいよ。
本当?
一子
どこ行く?カリブ?グアム?
…四国とか。
一子
(笑いつつ)いいよ。
俺、貯金始めるよ。
一子
え、ないの?
うん。
一子
だって10年もサラリーマンやってて?
競馬を控えるよ。
一子
ちょっとちょっと。
いや競馬はロマンなんだって。
一子
冗談。ロマンにどれだけつぎこんだのよ。
いや…。
一子
花火の話、真面目に聞いて損しちゃった。
どうして。
一子
だってあれから20年。貯金もないなんて遊びすぎだよ。
ああ、すいません。
一子
まあ、私もないけど。
おい、何だよ、それ。
一子
OLの付き合いも大変なのよ。やれ買物ツアーだ。やれ化粧品だ。エステだって。
それじゃあ俺を責める資格ないじゃない(か。)
一子
(健を切って)あ。
え?ひときわ大きな花火が上がった。
一子
たまやあー。
おいおい。
一子
ほら、けんちゃんも一緒に。
ったく…。
またもや大きな花火が上がった。
おしまい