237話(2000年10月13日 ON AIR)
「六分十五秒の半生」

作・

当麻英始(劇団大阪新撰組)

ねえ。

ん?

あと、何分?

・・・。

何分?

十分ぐらい・・・。

ちゃんと言って。ぐらいなんていい加減な言い方はいや。

六分と十五秒。

そう・・。

あのさ・・。

何?

なんでもない。

変な人。

・・・。

あと六分かあ。

そうだな。

約束はちゃんと守ってね。

ああ。

本当よ。

ああ。

私、死ぬ時に誰かが横で泣いてるなんて絶対にいや。

わかってるって。

黙ってるってのもいやよ。

じゃ、どうしたら・・。

歌を歌って。

歌?

そう、歌。

そんな・・。

いや?

だって、こんな時に歌なんて。

あんた、よく歌ってたじゃない。二人で話をしていて、
ふって会話がとぎれた時なんか、まるで独り言のように。

だって、あれは・・。

何?

口から自然にでちゃうんだもの。

そんな感じでいいのよ。

そんなこと言ったって・・。

お願い。

でも・・。

お願い。

わかった、やってみる。

ありがとう。

どんな歌がいいんだ。

なんでもいい。

なんでもいいって言ったって。

あんたの好きな歌がいい。

俺の?

そう。

そんなの・・。

無いなんて言わないでね。

そうじゃなくって。

何?

急には思いつかないよ。

なんでもいいのよ、なんでも。

だって・・。

いつもみたいに歌ってくれたらそれだけで落ち着くと思うの、私。だから・・。

わかった、なんとかやってみる。

ありがとう。

・・・。

あと、何分?

四分と三十八秒。

そう。何に生まれかわるのかしら、私。

生まれかわる?

ほら、あるじゃない。輪廻って言うの、あれ。

ああ。

でも私、全部死んじゃうんじゃないんだから、どうなるのかしら?

さあ・・。

角膜とか、心臓とか、じん臓とかは残るんだし。

別々に生まれかわるんじゃないのか。

そんなのいや。

でも、それぞれ他の人の体になっちゃうわけだし。

それはそうだけど、預けてるだけだからね。

預けてる?

そう、その人の人生がちょっと伸びるように預けてるの。

それから?

返してもらうの。その人の人生が終わったら。

それまではどうしてるんだい?

待ってるの。

なんか不気味だな。

大丈夫よ、化けてでたりしないから。
だって何かを恨んで死ぬんじゃないんだもの。
ただ見守ってるだけよ。天使みたいじゃない。

天使?

そう、天使。

そんな感じには見えないけどなあ。

じゃあどんな感じ?

お岩さん。

本当に化けるわよ。

冗談だって。

ちゃんと見届けてね。

ああ。

どんな人に貰われるのかしら、私の体。

誰かはわかんないけど、きっとおしゃべりになるだろうな。

ひどおい。

ごめん、ごめん。

楠がいいなあ。

えっ?/font>

生まれかわるの。

ああ。

神社か何かの楠がいいな。そして、いろんな人の人生を見守るの

天使みたいにか。

そう、天使みたいに。ほら、楠って何百年も生きるじゃない。
きっとたくさんの人の人生を見守ることができると思うのよ。
わたしが心臓をあげた人の子どもとか孫とか、そのまた子どもなんて
見つけたらたまらないでしょうね。考えただけでもぞくぞくしちゃうわ。

楠かあ。

そう、楠。

なあ、やっぱり・・。

何?

やっぱり・・。

考え直せって言うんなら聞きたくないわよ。

でもさ、もしかしたら・・。

やめてって。

でも・・。

もしかしたら、何?

だから・・。

助かるって言うの?

それは・・。

私、苦しみながら死ぬなんて絶対にいや。

・・・。

いいのよ、覚悟はできてるんだから。

強いなあ。

強い?

そう。

そう思う?

だって・・。

本当にそう思う?

・・・。

怖いのよ、苦しみながら死ぬのが。

ごめん・・。

いいのよ、気にしないで。

・・・。

あと何分?

一分と五十二秒。

約束。

ああ。

ほら、早く。

(歌う)母さんが夜なべをして、手袋編んでくれたあ・・。

(笑う)くすっ。

おかしいか?

ううん、好きよあんたのそういう所。

・・・。

あんたと知り合えてよかった。

そうか。

だって、ひとりぼっちで死ぬところだったんだもの。あんたのこと一生忘れないわよ。

僕も忘れないよ君のこと、一生。

ありがとう。

・・・。

あと、何秒?

十二秒。

そろそろきいてくるわね、麻酔。

手、にぎってようか?

うん。

・・・。

ねえ。

何?

歌って。

ああ。(歌う)母さんが夜なべをして、手袋編んでくれたあ・・。