239話(2000年10月27日 ON AIR)
「走れ!大谷くん!」

作・

花田明子

  
 

小学校の運動会
運動会よろしく、お母さん、子供達やらかけっこの
アナウンスやらが聞こえている

  
アナウンス
(先生のマイクの声)
さあ、位置についたかな?ようーいどん。

  
 

火薬ピストルの音「ドン」

声援がとびかう。

  
坂井まことー頑張って!

大谷ほら、まこと君。まこと君頑張れー!!

坂井まこと、そこだ抜けー!

大谷おいおい。

坂井今だ!まこと!男だろ!抜かせー!

大谷おい、坂井、ちょっとちょっと。

坂井腕を振らんか!まことー!

大谷しょうがねえなあ。まことくーん!行けー!

坂井あー!!

大谷あー!

  
 

火薬ピストルの音

「ドン。ドン。」

  
アナウンス
(先生のマイクの声)
ゴール!一着3組井上健くん。二番5組武田孝一君。三着・・・。

坂井あーあ。

大谷あー。残念だったなあ。

坂井ちっとも残念じゃないわよ。四着なんて中途半端な。

大谷中途半端って。よくやったよ、まこと君。

坂井お世辞はよしてよ。もう、何であんなに走るの遅いのかしら・・・。

大谷坂井、お前ね。子供にそういうこと言っちゃダメだよ。

坂井どうしてよ。

大谷そりゃあ、得手不得手があるからだよ。

坂井でもさあ、小学校なんてスポーツ出来なきゃもてないのよ。

大谷もてるとかもてないとかじゃないだろう。

坂井どうしてよ。まことにはもてもてのウハウハになって欲しいんだから。

大谷どういう母親だよ。

坂井こういう母親よ。

大谷どういう教育方針だよ。

坂井そんなのどうでもいいのよ。だってスポーツマンが好きなんだもん、私。

大谷あのなあ。あ、まこと君!

  
 

と、大谷、四着の籏の後ろで手を振るまこと君に手を振り返す。

  
坂井もう、何であんなにご機嫌なのよ。

大谷おい、坂井。お前も手え振ってやれよ、まこと君に。

坂井しょうがないなあ。『まーこーとー!四着はそんなにほまれじゃないぞー!』

大谷おい、何言うんだよ!あ、でもまこと君ご機嫌に笑ってるなあ。
(と何か微笑ましい)

坂井『まことー!男だろ!悔しがれ!』

大谷おいおい。何言ってんだよ。

坂井ったくもう・・・おおらかなんだから。

大谷うーん。まあお前と違ってな。

坂井どういう意味よ。

大谷いや、ほめてんだよ。

坂井どこが。

大谷いやあ、まこと君だよ。まこと君はなかなかきっと大物になるよ。

坂井ならないわよ。

大谷いやあ、今でも十分大物だよ。

坂井どうして。

大谷いやだって母親のお前がこんななのにさあ。

坂井あのね、大谷くん。

大谷あ、また手を振ってる!いいぞー!

坂井もう・・・。

  
 

ちょっとの間。歓声やらアナウンスやらは聞こえている。

  
大谷複雑な年頃だよ。

坂井え?

大谷小学校三年生。自我やら何やらが芽生えはじめるようなさ。

坂井うん・・・そうだよね。

大谷どう思ってるのかなあ。

坂井何。

大谷いやまこと君。俺のことさ。

坂井ああ・・・。面白いおっちゃんだとは言ってたけど。

大谷おっちゃんって。

坂井でもどうなのかな。あの子、何も言わないから。

大谷それは反対してないってことか?

坂井うん、多分・・・。いや、まだちゃんと大谷くんのこと話してないんだけどね。

大谷ああ。

坂井「お友達。」って言ったら、「よかったな。」って言ってたけど。

大谷(喜んで)え、本当?

坂井うん。「母ちゃんちょっとやさしくなったもんな。」ってさ。

大谷大人だな!

坂井変にね。

大谷え?

坂井変に大人になっちゃったのよね、きっと。

大谷どう言う意味?

坂井・・・ねえ。ちょっとあっちに行かない?

大谷え?

坂井当分まことの出る種目ないから。

大谷ああ。

坂井いった(痛い)!

大谷え?

坂井いや、何でもない。

大谷うん・・・?

  
 

二人、縄の張ってあった場所から移動する。

  
坂井泣かないのよ、あの子。

大谷ああ、えらいなあ。

坂井・・・でもね。悔しいのは分かるのね。

大谷え、今のも?

坂井うん・・・。でもね、絶対人前で泣かないのよね。

大谷えらいじゃんか。

坂井ううん、そうじゃないのよ。人前って言うんじゃないな。
私の前では絶対泣かないの。

大谷うん・・・。

坂井きっとまたトイレとか、どっかで泣いてんだと思うのよ。

大谷男の子だからだろ。

坂井大谷くんは子供の頃、よく泣いた?

大谷え?

坂井ねえ、どうだった?

大谷俺か・・・まあどっちかと言うと泣くわ、わめくわ、はしゃぐわ、殴るわ。

坂井(笑って)らしいな。

大谷おう。かなり喜怒哀楽のはっきりした子供だったらしいな。

坂井うん、普通そうだよね。

大谷まあな。

坂井何かね、ちゃんと悔しいときも怒ったり泣いたりしたらいいのに・・・。

大谷うん。

坂井多分、あの時からなのよね。

大谷あの時から?

坂井功一さんが亡くなったときから・・・。

大谷・・・ああ。

坂井まこと、まだ五歳だった。私が目一杯泣いたからさ。
ずっと泣いてばかりだったからさ。
だからあの子泣けなくなっちゃったんじゃないかって。

大谷考えすぎだよ。

坂井そうかな。

大谷いや。

坂井・・・。

大谷いや、もしかしたら、いや多分そうなのかも知れないけどさ。

坂井うん。

大谷だったらまこと君は本当に立派だよ。なあ。そうじゃないか?

坂井でもまだ九歳なんだからさ。

大谷おう、九歳だからですよ。すごい九歳だよ。

坂井だって笑ってても泣きたいのを我慢してるように見えるのよ。

大谷だったらそれをほめてやれよ。

坂井ほめる?

大谷そうだよ。母さんは本能のままで生きてるが、お前は優しい子だなっとかさ。

坂井(大谷が優しいので)何よ、それ。

大谷母さんはいつだって泣きたい時に泣き、笑いたい時に笑って、
自分のことばかりに夢中だが。

坂井ちょっとちょっと。

大谷まことはえらいなあ。いつだって母さんに笑ってくれてっとかさ。

  
 

坂井、泣いてしまった

ちょっとの間

  
大谷でも、まこと君も九歳とはいえ立派な男だからな。

坂井んん?

大谷いや、お前はしょっちゅう俺の男気というやつを疑うことばかり言うけど。

坂井何よ。急に。

大谷いえね。まこと君も俺も男ですからね。

坂井うん。

大谷好きなひと・・・というか・・・大事な人・・・というかそういう人の前では・・・。

坂井お、昼間っから運動場で口説こうとしてるな。

大谷おい、お前今大事なところなんだから茶化すなよ。

坂井茶化してないって。それでそれで?

大谷もう、いいよ。

坂井何でよ、早く早く口説いてよ。

大谷口説いてないよ!

坂井もう、何なのy。早く言いなさいよ。

大谷もう・・・。だから男は好きな人の前ではそうそう泣かないもんだってこと。

坂井(茶化すように)ええ?

大谷一応、格好つけときたいだろ。そりゃあいずればれるとしてもさ。

坂井え、でもこの間、『マーズアタック』見て泣いてたじゃない。

大谷いや、あれはさ。

坂井どうしてあれで泣くのよ。

大谷いや、あれは泣けるでしょ。最後のシーン。
だってあのおばあちゃんが地球を救った(んだよ)。

坂井あ、まこと!

大谷え?・・・ああ、何かおいでおいでしてるぞ、まこと君。

坂井あ、忘れてた!

大谷え?

坂井親子対抗二人三脚があるんだった。

大谷おおう、お前そんな大事なこと。早く行け。

坂井うん。悪いけど大谷君、お願い。

大谷どうして?!

坂井いや実はさっきまことを応援してるとき足をくじいたのよ。

大谷何?!

坂井ほら、早く行ってよ!

大谷何で応援してて足をくじくんだよ!

坂井ほら、早くしてよ!まこと手振ってるじゃない!

大谷いやでもさあ。

坂井ほら早く!

大谷もうしょうがないなあ。

  
 

と、大谷、急いで走ってゆく。坂井、その後ろ姿に、

  
坂井ほら、走れ!大谷くん!

大谷なんで・・・あ、まこと君見てる!今行くぞー!うおおおー!

坂井行け!行け!大谷くん!

  
  
おしまい