244話(2000年12月1日 ON AIR)
「忘れない」

作・

花田 明子

  
 

茶わん、雑誌が次々に投げつけられ壁にぶつかる音

  
飯田だから違うんだって、聞けよ。

金井問答無用!

飯田おい、待て話せば分かる。

金井話して分かるくらいならこうなってんたい!

  
 

どたばたと逃げ回る飯田と、物を投げ続ける金井

  
飯田おい。待てったら。

  
 

とうとう、物を投げていた金井の手を止めた飯田。

  
金井離しなさいよ。

飯田ならもう投げないか?

金井投げるわよ。

飯田だったら離さない。

金井無気味なこと言わないでよ。

飯田何?

金井ここから喧嘩を聞いた人が勘違いするでしょ?

飯田何で。

金井だったら離さないだ?そんな適当に格好よさげなこと言うやつはこうしてやる!

  
 

と金井、飯田の腕を噛んだ

  
飯田いたたたた。おい、何すんだよ!

金井何って咬んだのよ。

飯田お前は犬か!

金井今の私は犬じゃないわよ、狼よ。

飯田訳分からんこと言うな!

金井もう、いいわよ。

  
 

と、金井、飯田の部屋から出て行こうとする

  
飯田おい、待てったら。

金井もう、いいのよ。

飯田おい。

金井・・・。

  
 

金井、止まった

  
飯田お前に話さなかったのは悪かったと思うよ。

金井思うじゃない。

飯田悪かった。

金井うん。

飯田でも変な誤解をされたくなかったからさ。

金井誤解?

飯田だって今だってこんななってるじゃん。

金井これは私のせい?

飯田・・・。

  
 

一瞬の間

  
金井もう和子さんとは会わないって言わなかったか?

飯田言った。

金井だったら何で会うの。

飯田それはさっきも言ったろう?

金井「もう私ダメだ・・・」って電話がかかってきたから・・・。

飯田うん・・・。

金井でも別れた彼女じゃない。

飯田そうだよ。

金井なのに何で会いに行ったりするの?

飯田だったらお前なら行かないのか?

金井私は行かない。

飯田本当かよ。

金井現に行ってない。かかってきたことあるけど。

飯田いつ。

金井え?

飯田どいつだよ。

金井ちょっと何で私の話なのよ。

飯田だって俺聞いてないよ、それ。

金井だって出掛けて行かなかったんだから言う必要ないじゃない。

飯田でも言えよ、そう言う電話があったってことくらいさ。

金井あのですね、飯田君。

飯田何ですか?

金井今あなたにも私はそういうことを言ってるんですけど。

飯田あ・・・そうでした。

金井それにあなたの場合は断れずに結局御会いになったわけでしょう?

飯田嫌味な言い方すんなよ。

金井だったら私がそういう風に会いに行っても平気?

飯田嫌だよ。

金井でしょう?なのにどうしてそういうことしたりするのよ。

飯田・・・。

  
 

ちょっとの間

  
飯田何かさ、危ないんだよ、あいつ。

金井何それ。

飯田何するか分かんないって言うかさ。

金井それってどういう風に解釈したらいいわけ?

飯田何が。

金井別れてもまだ気になりますって私には聞こえる。

飯田・・・。

金井まだ・・・忘れてませんって聞える。

飯田・・・。

  
 

ちょっとの間

  
飯田だって忘れるなんて無理だろう。

金井どうして?

飯田だったらお前はどうだ?昔好きだったやつを忘れてるか?

金井・・・でもそれとまた会っちゃうかどうかは別だ。

飯田俺、嫌いになって別れたやつなんて居ないんだよ。

金井・・・。

飯田何か御互いに一緒に居る理由がずれてきてしまったなあ。とかさ。大事にする重さが替わって来てしまったんだなあとかさ。

金井・・・。

飯田だから別れた後も大丈夫かなあとか考えてしまうんだよ。考えちゃうんだよ。

金井・・・飯田君はさあ・・・優しいけど残酷だよね。

飯田・・・そうなのかなあ。

金井だって何だってそうしてしまうんだよ、仕方ないだろって言う。

飯田だってほうっておけないじゃん。

金井ほら、また。

飯田え、ほらまたって?

金井・・・飯田君は必ず「送ろうか?」って言う。

飯田何急に。

金井「送るわ」って言わない。

飯田どう違うんだよ。

金井「どっか行くか?」って聞く。「どこ行こう!」って言わない。

飯田何言ってるんだよ。

金井責任がないんだよ、あなたたちは何も。

飯田・・・違うよ。

金井ううん、そう。だから優しい。いくらでも手を伸ばせる。

飯田お前ひどいこと言うなあ。

金井きっと、とても拒絶された思い出があったんだろうなあって思ってきた。

飯田何それ。

金井きっと相手のことを考え過ぎて何も言えなくなってきたんだなあって思って来た。

飯田・・・。

金井でもあんまりいろんなことが無神経で無邪気だから、ときどきものすごい苦しいよ。

飯田・・・。

金井・・・何かね、もうダメだ、私も。

飯田・・・俺、どうしたらいい?

金井・・(笑ってしまって)好きな人がいるんでしょ?

飯田え?・・・いや・・・。

金井ごめん、それ、知り合いだ。

飯田・・・。

金井彼女は私と自分自身がダブってること知らないから時々電話してくる。彼女名前は言わないけど一発で飯田君のことって分かった。

飯田・・。

金井ねえ、分かりやすく傷つけて振ってくれんか?

飯田・・・。

金井別れても私があなたに電話をかけたりしなくていいように、分かりやすく振ってくれんか?

  
 

少し長い間

  
飯田吉岡のことが何かすごく好きなんですよ。

金井はい・・・。

飯田何かね、すごく馬鹿っぽい振りしてるけど振りでさあ。

金井よっちゃんは優しくて頭のいい子だよ。

飯田そう・・・でね、何か不器用なんだな・・・。だからなんだよ。

金井・・・(哀しすぎて笑えた)最低だな。

飯田そうだな。

金井分かりやすく振ってくれっていうのはそういう風なことじゃなかったのに・・・。

飯田え?

  
 

飯田、金井の目をじっと見た

  
金井・・・もう付き合ってるの?よっちゃんとは。

飯田そんなわけないでしょ。

金井そう・・・。だったらちゃんと告白しなきゃ。

飯田ああ・・うん。

金井よっちゃんも飯田君のことが好きだよ、だから安心して告白せんとな。

飯田うん・・・。

金井じゃあ・・・。

飯田うん・・・。

  
 

金井、部屋を出て行こうとして

  
金井実は随分前から気付いてたんだよ。

飯田え?

金井よっちゃんの他にも一杯ダブってたこと。

飯田・・・はい。

金井私はそういうのが不得意でな。

飯田・・・。

金井だから人がわざわざ教えてくれたり、いろいろ聞えてきたりして、もうずーっと苦しかった。

飯田・・・。

金井何で黙ってるの?

飯田いや俺が悪いから・・・。

金井先週、もう嫌だって思ってもらったものを全部捨てようと思った。

飯田うん・・・。

金井いろんなものを捨てた。

飯田はい・・・・・。

金井でもあれだけが捨てられなかった。

飯田何?

金井友達と旅行に行った時に買って来たって。1対の置き物。トラとよく分からんブタみたいなやつ。手のひらにのっかってしまいそうな・・・。こんなに小さな可愛い1対の置き物を買って来る人なんだなと思って感動したから。こんなに小さなものに気付いて拾い上げてしまう人なんだなって思ったから・・・。きっと全部忘れないよ。私も。

飯田・・・うん。

金井いろいろ本当にありがとう・・・。

  
 

金井が部屋を出て行った

  
  
  
おしまい