249話(2001年1月5日 ON AIR)
「さんまに振そで、初詣」

作・

花田 明子

  
 

佐藤(男)池田(女)

雑踏の中、歩いている足音が聞こえる

神社

初詣で、下駄の音、祭り囃子も聞えている。

走って来る男の足音

  
佐藤すまーん。すまん、すまん。

池田おお、うーっす。

佐藤うーっす。遅れてすまん。

池田いやいやその前に。

佐藤おう、そうだな。明けまして、

二人おめでとう。

佐藤いやあ2001年だよ。

池田そりゃそうでしょ。

佐藤新世紀の到来だよ。

池田まあね。

佐藤やっとまた始まりですなあ。

池田何言ってんの。

佐藤何って、あれれ。どうしたの、それ。

池田何が。

佐藤髪なんかあげちゃって。

池田まあね。

佐藤着物なんか着ちゃって。

池田振りそでね。

佐藤下駄なんかはいちゃって。

池田そりゃ振りそでには下駄でしょ。長靴ははきませんよ。

佐藤どれどれ、ちゃんとこっち向いてみ。

池田うるさいって。

佐藤ははーん。さてはそれで機嫌が悪げなのだな。

池田何さ。

佐藤いや恥ずかしい訳だな。

池田何?

佐藤そうでしょう。そうでしょう。こっぱずかしいもんだから、不機嫌を装っちゃって。

池田あのねえ、佐藤君。

佐藤はいはい。

池田私は別に恥ずかしいからとかそう言う、

佐藤悪くないぞー。悪くない、池田よ。

池田それは・・・。

佐藤うん。いいんじゃないか?

池田有り難うございます。

佐藤うん。普段からそういう感じにしてろよ。

池田普段から振そで?

佐藤何言ってんだ、違うよ。女らしい格好っていうかさ。ちゃんと化粧して。

池田あ、セクハラだ。

佐藤何でだよ。

池田だって価値観を強要しようとしてるじゃん。

佐藤セクハラってそういう意味だっけ?

池田・・・。

佐藤いや、だってさ。普段お前ちっとも化粧しないじゃん。

池田いいのよ、それが私らしいんだから。

佐藤そんな、そんな。口紅もぬってこうや。

池田ぬりたきゃ佐藤君がぬれば?

佐藤それ意味変わるでしょうが。

池田だからいいんだったら、そんなことは。

佐藤いやでもさ。

池田とりあえず、お参り行こうよ。

佐藤おう。

  
 

二人、歩き出す。池田のはく下駄の音が「カランコロン」と心地好い音をたてている。

  
池田いつもの格好で来ようとしてたら、おばあちゃんがどうしても着ろってうるさくてさ。

佐藤うん。いいじゃん。たまには。

池田いやそうじゃなくてね。だって私30だよ。

佐藤俺も30だよ。

池田知ってるわよ、同級生なんだから。

佐藤うん。

池田いやだからね。これ、成人式以来一度も着てないのよ。

佐藤え、貸し衣装じゃないの?

池田そんな、初詣にわざわざ貸し衣装着て来る人居ないでしょ。

佐藤ああ、そっか。あ、じゃあ成人式の時に作ったんだ。

池田おばあちゃんがね。作ってやるって。

佐藤へーえ。

池田何か似合わないでしょ?

佐藤そんなことないよ。

池田いや、何か着物の華やかさに負けてるっていうかさ。

佐藤そうかあ?

池田私さ、20歳の時、作ってくれるって言ったから、なら目一杯派手に御所車やら、絹糸の花を散らしてくれって言ったの。

佐藤確かにあるな、御所車。

池田袖に各一台。前に一台。計三台。

佐藤確かに。そして絹糸の花か・・・。

池田派手でしょ。

佐藤でも振そでってそんなもんだろ。

池田・・・みんながみんな佐藤君みたいにざっくりした視点で見てくれたらいいんだけど。

佐藤何だよ、ざっくりしたって。

池田今になって取り出してみて10年の月日について考えたよ。

佐藤そうか・・・まあ10年だもんな。

池田いやここへ来る前、明らかに20歳とおぼしき若者に数人あったのだよ。

佐藤うむ。

池田そして何だかその違いにまたうんざりした。

佐藤そりゃ20歳と30歳じゃ違いますよ。

池田そうなのだよ。

佐藤え?何言ってんの、お前。

池田鯛にリボンがついて出て来る時はさ、鯛は晴れやかな気持ちで食卓に並んでるんだと思うんだよ。

佐藤何?鯛って魚の鯛か?

池田それ以外にどんな鯛があるのよ。

佐藤いやだってさ。

池田だから鯛だって分かってるからみんな紅白のリボンがついてるのを晴れやかな気持ちで見るのだとおもうのね。

佐藤うん。

池田でも、もしよ。これがさんまの塩焼きや、

佐藤何?

池田それともめざしに紅白のリボンがかかってたら哀しさ以上に悲壮感があるんじゃないかって。

佐藤お前、自分がさんまかめざしって言ってんの?

池田いや、何かそんな気分なのよ。

佐藤ふーむ。それは・・・。

  
 

しばし歩いている二人の音

  
佐藤いやこれは俺の考えだからまあ信じようと信じまいとお前の勝手なんだけど。

池田何?

佐藤確かに鯛のよさはあるわな。

池田ほら、大体男はみんな若い方がいいのよ。

佐藤待て待てそんな話じゃない。

池田あれ、そう?でも佐藤君だってどうせ、何でも分かったような口をきいて、人生どっぷり抱えてる女より、若くて素直でぴちぴちしてる女の子の方が好きでしょ?

佐藤まあどっちかと言えばね。

池田ほーら!

佐藤待て待て、くっそう。正直が仇に。

池田何?

佐藤いやいやそうじゃなくてさ、確かにゴージャスな鯛はそれはそれで華やかなもんですよ。

池田ほら。

佐藤まあ聞けったら。

池田うん。

佐藤でもさ、そう毎日毎日出てこんでもいいと俺は思う。

池田あ、そう?

佐藤うん。第一毎日鯛だったら有り難みがないだろ?

池田時々だったら若い子と浮気したいってこと?

佐藤どうしてお前はそうひねくれた方へひねくれた方へ向かうんだろうなあ。

池田ほーら、やっぱり。

佐藤要はさ、

池田何よ、急に大きな声出して。

佐藤いやね、他人がどうかは別として俺はさんまの塩焼きは大好物だし、毎日食っても飽きない。

池田いやあね。

佐藤まあ、最後まで聞けったら。

池田・・・うん。

佐藤めざしなんてビールのおつまみに最適だし。

池田おつまみね。

佐藤いやそうじゃなくて、何というか、かめばかむほど味もあり、飽きない。

池田ねえ、さっきから飽きない飽きないばっかり強調されてる気がするんですが・・・。

佐藤あれ、分かりました?

池田ええ、分かりました。

佐藤だって高校からだから付き合いももう14年ですよ。

池田まあね。腐れ縁だよね。

佐藤というかね。

池田うん?

佐藤すごいことだなあってことだよ。

池田何が。

佐藤だから飽きずにこうやっていられるってことはさ。

  
 

一瞬の間

  
池田おいおい。正月そうそう何を恥ずかしげもなく。

佐藤ええ?

池田だって、だってだってさ。

佐藤いやさんまの塩焼きとメザシの話だよ。

池田え?

佐藤俺、高校くらいから焼き魚好きになったんだよ。

池田・・・。

佐藤(にやりとして)何の話だと思ったの?

池田・・・ちょっと・・・。

佐藤おお、そろそろおれたちの番だよ。

池田え?

佐藤今年は何をお願いするかね。

池田・・・。

佐藤俺、何にしようかな・・・。

池田私は全てを分断するくらい衝撃的な運命の出会いをお願いするわ。

佐藤何?!

池田見てろよ。今年は運命の出会いでさんまから鯛に昇進してやる。

佐藤へーん。なら俺も衝撃的な運命の出会いでもお願いするか。

池田何?

佐藤だってお前がお願いするんだから俺もするよ。

池田抜け駆けはダメだからね。

佐藤何だよ、それ。

池田もしあなたにだけそんなのが訪れたら私はこれから一生をかけてあなたを恨むことに費やすから。

佐藤お前、年の初めから恐ろしいことを予言するなよ。

池田ねえ、いい?

佐藤そんなだったら俺、お前と年内に結婚でけますようにってお願いするよ。

池田ちょっ、ちょっと何それ。

佐藤何それって?

池田むかつくなあ、そんなついでみたいに。

佐藤いやついでっていうか。あ、お前、待て、まだ鈴鳴らすな。

  
 

池田の鳴らす鈴の音と拍手。

  
佐藤・・・おい、何をお願いしたんだ。

池田内緒だよ。

佐藤何?

池田楽しみだな。

佐藤くっそうー。