260話(2001年3月23日 ON AIR)
「ヒトによる」

作・

高橋あやのすけ

  
 

閉店前のレストラン
掃除を終えた小島さんは、エプロンを外してたたむと、カウンターで集計している店長に近づいた。

  
小島店長、掃除終わりました。

店長お疲れさん。じゃ今日はあがって。

小島はい。

  
 

しかし、小島さんは、動かずに店長を見ていた。小島さんの視線に気付いた店長は、集計用紙からふと、目を上げる。

  
店長どうした、小島?もうあがってもいいぞ。

小島店長。

店長ん?

小島お話があります。

店長何だ?

小島昨日、吉岡さんが。

店長おお、吉岡がどうした。

小島店長からセクハラ受けたって。

店長えっ?

小島ですから、昨日吉岡さんが店長からセクハラを受けて困ってるって、他のバイトのみんなに相談してました。

店長俺はセクハラなんてしてないぞ。

小島でも・・・。

店長俺、今まで一度もそんなことしたことないだろう?

小島そうですね。

店長吉岡は俺に何をされたって言ってるんだ?

小島さわられた、って。

店長さわられた?

小島はい。髪の毛をさわられた、って。

店長かみのけ。

小島はい。

店長髪の毛ぐらいでセクハラなのか?

小島はい。

店長冗談じゃない。

小島気持ち悪いからやめてほしいって言ってました。

店長気持ち悪いってことはないだろう。じゃあ、美容師さんは、みんなセクハラじゃないか。

小島それは違うでしょう。

店長わかってるよ。

小島さわったんですか、店長?

店長お前、さわった、ったって、(と、店長、小島の髪手を伸ばしかけて、)ちょっといいか?

小島ええ。

店長(小島さんの髪を軽くさわって)こうだぞ?吉岡って髪の毛まっすぐでいいな、って。

小島そうですか。

店長小島は今のがセクハラだと思うか?

小島いいえ。

店長だろ?俺、ほら、くせ毛だからさ、それってすごいコンプレックスだった訳だよ。それでな、何て言うんだ?ああいうまっすぐな髪の毛がうらやましくてそれでまあ、ついさっきみたいに撫でたくなったんだよ。

小島やっぱり、さわったんですね。

小島親しみ、ですか。

店長だから俺は、いやらしい気持ちは全然なくて、ただ単にうらやましくてそれでまあ、ついさっきみたいに撫でたくなったんだよ。

小島親しみ、ですか。

店長親しみったって、その、なんて言うか、同じ職場で働くものどうしとしてさ。

小島この際、店長がどういう気持ちでさわったかは、全然関係ないと思います。

店長関係ないって、おい。

小島吉岡さんは店長に髪の毛をさわられて、それが気持ち悪かったんです。

店長まあ、そりゃそうなんだけどさ。

小島もしこれが吉岡さんの大好きな福山雅治なら、何の問題もなかったわけです。

店長何だ、そりゃ。それじゃあまるで俺が、俺だったからいけないみたいじゃないか。

小島そうです。

店長福山と俺のどこが違うんだ。同じじゃないか。

小島私がもし、私と藤原紀香と同じでしょ、って言ったら店長は同じだと認めてくれますか?

店長いいや。

小島じゃあ、店長と福山雅治も違いますよね。

店長それとこれとは違うだろ。

小島同じです。いいえ、これがもし、福山雅治じゃなくて、他の誰かだったとしても、吉岡さんは何も言わなかったかもしれません。でも、相手が店長だったからダメだったんです。要するに吉岡さんは店長のことをちっともよく思っていなかったんだと思います。

店長お前、ひどいこと言うなあ。

小島セクハラってそういうものなんじゃないんですか。

店長ちょっと誉めただけだったのに。

小島店長が32年間女性とつきあったことがなくって、バイトの女の子とどう接したらいいのかわからずに今回のような行動をとってしまった気持ちは、よく分かります。

店長そんなもん、わかんなくていいよ。

小島でも、今後は吉岡さんには絶対にさわらないほうがいいと思います。

店長わかった。気をつけよう。

小島それと、今後は仕事で必要なこと以外は話しかけないようにしてください。

店長なにー?

小島今度されたら、訴えるって言ってました。

店長そんな無茶な。

小島彼女の父親は弁護士なので、それができるって。

店長親が弁護士だろうが、何だろうが関係ないだろう。普通に考えてみてもだな・・・。

小島実際、前に吉岡さんが務めていたバイト先の店長は訴えられて、慰謝料を払わされたあげく、店を辞めたそうです。

店長本当か?

小島本当です。

店長わかった。じゃあ、それも100歩ゆずって、これからはなるべく吉岡にはさわらないようにするし、仕事で必要な話以外はしないように気を付けよう。

小島なるべく?

店長・・・絶対に。

小島そうですね。

店長ちくしょう。

  
 

小島、少し笑った。

  
小島店長。

店長何だ?

小島店長はまっすぐじゃないとダメですか?

店長えっ?

小島髪の毛。

店長いや、別にダメじゃないけど。

小島よかった。

店長何が。

小島私も店長と一緒で、ちょっとクセ毛だから。

店長えっ?

小島私、さわられても全然イヤじゃないですよ。

店長えっ?

小島もちろん、誰でもってわけじゃありませんけど。

店長ああ。

小島もう一回試しにさわってみます?

店長え?

  
 

店長が少しこわばった。小島、かまわずに店長の手をとって、自分の頭へ持っていく

  
店長あっ。

小島・・・ね。

店長ああ。

小島どうですか?

店長ああ。

小島クセがあるからポワポワしてるでしょう?

店長うん。やわらかい・・・。

小島私の頭、いつでも使ってくれていいですよ。

店長うん。

小島私は全然イヤじゃないですから。

店長うん。

小島小島、店長の手から頭を離した。

店長あっ。

小島また、さわってください。

店長ああ。

小島吉岡さんのことお願いしますね。

店長わかった。

小島じゃあ、お疲れ様です。

店長おつかれ。

  
 

小島、行ってしまった。

  
店長・・・確かに、相手によるんだよな。

  
 

と、店長は自分の手を見つめた。