261話(2001年3月30日 ON AIR)

「楽しいお引越し」

作・四夜原 茂
エレベーターのドアが開く。段ボール箱がドサドサとエレベータから外にあふれ出す
あー!
ちょっと、気をつけてよ。私の荷物の中には割れものだってたくさんあるのよ。
ごめんごめん。ちょっと、そこの「開」のボタン押しといて。
わかった。
よいしょー!くくく、くー!なにが入ってんだこの箱。お、おもい、おもすぎるー。
あー、それブロックじゃないかなー。コンクリートの。
ど、どうしてそんなものを?
便利なのよブロックは、花壇とか作る時に。
ここはマンションの7階だよー。
何年かしたらまた引っ越すかもしれないじゃないの。よいしょー!
エレベータのドアが閉まる。
ようし、やっと7階まで来たぞ。
下のレンタカーはどうするの?
明日返すしかないだろう。もう今日は営業時間終わってるんじゃないか?
何時かしら・・・?
ええと・・・12時。
ええ?!もう夜中じゃないの。
だって仕方ないだろう。うちの荷物を積み込んだ時はまだ午前中だったんだよ。でもナミエの部屋のあのピラミッドみたいに積み上げられた段ボールをひとつ、またひとつと運んでいるうちに・・・。でも、まあ、オレたちがんばったよ。なあ。
うーん。それはそうね。よくトラックに乗ったものよね。あたし昼ごろ、もうダメなんじゃないかと思っちゃったたけど。
やっぱ2人で力を合わせると何とかなるもんだな。
本当よね。・・・コーちゃん(見つめ合う2人)
・・・ナミエ。
あー!(箱の山が倒れそうになっている)
うわうわ、うわー。あぶない。あぶぶ、あぶなかったー。
そこ、ちゃんと押さえといてね。そこが崩れちゃうと私達生き埋めよ。
わかってる、わかってるよ。はやく部屋に運んじゃおう。
うん。ここよね。このエレベータの横の部屋よね。
うん、701号室。
ガチャリと扉を開ける
あー、真っ暗だよー。
玄関のところにブレーカーがあるだろ。そのスイッチを上のにたおすんだよ。
これかな?(パチン)それから部屋の電気はと・・・。
どうしたナミエ、早くしてくれよ。
コーちゃん。電気がないよ。
へ?
天井に何もついてないみたい。
あ、そりゃそうだ。まず、電灯を天井にとりつけないとな。
電灯ってどこにあるの?
え?どこにあるって。ナミエの部屋にあった丸いやつは?
置いて来たよ。だって最初からあったんだもん。
えー?!
えーっって、コーちゃんも・・・。
どうすんだよ。こんな時間に電気屋開いてないぞ。明日は7時に起きて、8時から打ち合わせ、11時から1次会、3時に終わって5時から友達集めて2次会、夜9時までに何とか空港にたどりついて出発なんだよー。ハワイ3泊4日の旅にー。何とか荷物を運び込んじゃわないと、大変なことになるよー。
なんてスケジュールなのよ。引越しからハネムーンまでたったの一週間じゃ無理よー。あ、トイレまでの電気はつくわよ。ドアを開けたままにしとくと・・・うんうん。何となりそう。
よ、よし。ぐずぐずしてると朝になっちゃうぞ。なんでもいいから、これ全部ほうり込んじゃおう。
おーし、やるわよー。まず、その段ボール箱はこっちに投げてよこして。
これね。「小物」って書いてあるけど、中身は何なんだ。
小物よ。小物。はい!
小物!
はい次。
また小物!
はい次。
またまた小物。
はい次!
次は大物!どあ!
く!くくく。はい次!
大物!どりゃ。
う!ううう。はい次!
ラジカセ!
はい次!
テレビ!
はい次!
テレビ!
はい次!
ビデオ!
はい次!
ビデオ!
はい次!
洗濯機!
はい次!
洗濯機!
はい次!
洗濯機!
はい次!
電気釜!
はい次!
電気釜!
はい次!
冷蔵庫!
はい次!
冷蔵庫?!
はい次!
ちょっと変だぞ!
はい次!
みんな2づつある!
え?
なんか変じゃないか?なにもかも2ずつある。はいよ!
変じゃないわよ。コーちゃんも私もひとりぐらしだったんだから当り前じゃないの。
はい、もらいました。
いいのかな。こんな車で、はいよ。
なにがよ。あ、ちょっともう投げられないわね。ここのすき間から、もらうわ。はいはい。
洗濯機とか電気釜とか2つもあってどうするんだ?
なに言ってんの、子供が生まれたら必要になるわよ。はい、もらいました。
子供?はいよ。まさかナミエ・・・。
まだよ、まだだけどすぐよ。すぐに大きくなって太郎は彼女を連れてくる。はい、もらいました。
太郎って?はいよ。
長男の名前よ。もう決めているの。はい、もらいました。太郎は二十歳で結婚して、私達と同居するの。2世帯になったらお互いの生活を尊重するために2つずつ必要になるのよ。なにもかも。
ナミエってすげー先のことも考えてんだなぁ。はいよ。あれ、おーい。どこにいるんだー?
あたり前じゃないの。これからは、何もかもきちんとやってゆくの、ね、わかるでしょ。生活するってことは、そういうことなのよ。あれ?もうこっちには置けないから、そっちに置いといてよ。
こっちもいいかげん狭くなって来てるんだよ。ここに置くか。
どう?まだまだかな?
いや、あと50箱くらいなんだけどね。もうこのまま玄関にけり込んどこうかな。えーい!
ドサドサドサドサ
なんとかなりそう?
ちょっと待って・・・く、く、く、・・・、くー!
ガチャリとドアが閉じる
やった。やったよ。全部運び込んでドアがしまったよ!
やったー!とうとうやたんだわ。私達。
・・・ナミエ。ナミエー!どこだ?どこなんだ?
ここよ。奥の部屋のまん中に居るわ。
ええ?こっち来られないかー?
ええと、無理みたい。
ど、どうするんだよ。
仕方ないから今月はこのまま寝ましょう。
寝るったって、オレ、立ってるのがやっとだよ。
私もそう。明日、明るくなってきたらきっと見つかると思うの。玄関までのルートが。今日無理してこの段ボールの山の中に迷い込んだら生き埋めになりそう。
ナミエ、寒くないか?
寒いわ少し。でもがまんする。これからずーっとコーちゃんといっしょなんだもん。
ナミエ、ナミエー!いま、そっちへ行くからな。
ダメよ。あぶないわよ。そんな事しちゃ。コーちゃん冷静になって。今、大切なのは体力を消耗しないことよ。明日の8時の打ち合わせまでに旅行の準備もしなくちゃならないでしょ。そのあとのスケジュールを考えると今は動かずにじっと明るくなるのを待つのよ。ね。
すまない、ナミエ。オレの仕事の都合でこんな事になって。
泣かないで。コーちゃん。何か楽しいこと考えるのよ。楽しいこと、ない?
ハワイに行って・・・。
そう、ハワイに行くのよ。
帰ってきた日から出社するんだよ、オレ。
ダメダメ、もっと他のことを考えるのよ!
・・・ナミエ、オレ、もうだめかも知れないよ。なんだか、眠くなって・・・。
コーちゃん!
段ボール箱ってけっこうやわらかいなぁ・・・。
眠っちゃダメ!眠っちゃダメだよ。コーちゃん。明日起きられなくって、大変なことになるわよ。コーちゃん!
あー、外は吹雪なのかなぁ・・・。風の音がするなぁ。
吹雪の音
おわり