275話(2001年7月6日 ON AIR)

「軽いブルース」

作・武田 一度(劇団犯罪友の会)
ゲスト出演・猿飛佐助(ベターポーズ)
大阪ミナミ繁華街のはずれのミニキャバレー街。路上にタクシーが5、6台停まって客を待っている。タクシー運転手 藤野五郎32才が客引きをやっている。
夏子22才が藤野のタクシーの傍にしゃがみ込んで泣いている。ミニスカートに濃い化粧、いかにも安物のホステス然として見える。
午前三時を回っているだろうか。
藤野
「彼女、堺まで五千円」
「ねぇ彼女、市内ならどこでも三千円」
「奈良?一万円。どうぉ?」
「えっ?!オッサンはダメ!車が汚れるから!!女性専用のタクシーなの、おミズ様御用達なの」 「酔っ払いはダメなんだよぉ。乗車拒否?じゃねェよ、ハイヤーなんだよ。下々の男は乗せねェの」
「ハーイ彼女。桜川?ワンメーターじゃないの。歩いたほうが健康にいいよ。あの辺の自転車かっぱらって帰ったら?」
「お父さん!そんな所で立小便しちゃダメ!俺の職場なんだからさぁ」
藤野は傍に座っている夏子に
藤野
「泣いていても仕方ねぇだろ…あんな男に惚れたお前の不運ってもんだ。いいから逃げちまえよ。あんな男捨てて逃げるんだよ。このままだとお前…食いもんにされちまうよ。身体がぼろぼろになって寝込んだらポイよ、捨てられるよ。
ここはミナミのど真ん中だ。あんな奴は一杯いるんだ。ダマされてんだよ」
夏子
「うぅ…ダマされてないもん」
藤野
「昨夜も店の裏で殴られてたじゃねぇか。金むしられたのか?」
夏子
「新しい店を決めて来たから移れっていうの」
藤野
「それ世間じゃヒモって言うの」
夏子
「うぅ……優しい時もあるもん。ミュージシャンになってメジャーデビューするんだって。だけどバンド作るお金がないの」
藤野
「あいつホストだろ?」
夏子
「ヤメて一日中ギター弾いてる。感性が鋭過ぎるから暴力的になるの」
藤野
「短気ですぐブチ切れるヤンキーの典型じゃねぇか。ドラッグやってるだろ、あいつ」
夏子
「いい曲が浮かぶんだって」
藤野
「別れたいんだろ?本気で」
夏子
「うん…だけどね、あたし…中学の時回されてからショックで男が恐かったの……だからエスの方に走ってて、そのオバサンと別れ話がこじれてたのを、あの人が助けてくれたの。お店もマンションも世話してくれて……優しかった…」
藤野
「この一ヶ月お前の相談に乗ってきたが、こんな都会は向いてねぇよ。田舎に帰ったほうがいいよ。酔っ払うと暴力ふるうんだろ?」
夏子
「うん…殴るの…」
藤野
「目のふち黒いよ。痛いだろ?」
夏子
「これは元から黒いんだ」
藤野
「ゴメン、そうだったの…。俺も東京でテレビタレントやってたけど、あんな奴一杯見てきたよ」
夏子
「タレントだったの?」
藤野
「仕出しの役者だよ。セリフねぇんだ」
夏子
「スッゴーイ」
藤野
「へへへ事情があってよぉ、サラ金に追われて大阪へ流れて来たんだ。タクシー会社に借金肩代わりしてもらって三年間の奴隷契約よ…辛れえなぁ…うちのタクシー会社ってのは金融業の看板出してるんだぜ。
俺だって身売りされたようなもんだ」
夏子
「身売りされた者同士だね。
悲しいね私達…」
藤野
「だけど諦めちゃいけねぇよ。お前は若いんだ。新しく出直せるよ。
田舎へ帰るんだ。田舎へ。田舎何処だっけ?」
夏子
「高知の物部」
いや、このご時世でしょ、中々、あ
藤野
「いいとこらしいな」
夏子
「何もない、山ん中だよ」
藤野
「田んぼがあるじゃん。カエルが鳴いててよ、いいじゃん。
今帰らなきゃ俺みてぇに帰れなくなるよ。親も肉親も死んじまったら兄弟なんて冷てぇもんだよ」
夏子
「こんな私でも一回くらい恋愛してみたかったの…不器用だから」
藤野
「お前が惚れる相手じゃねぇよ。いい娘すぎるからよお前は…人が良すぎるよ…」
夏子
「あいつ逃げたら殺すって脅すんだ…」
藤野
「えっ?!そんな酷い事言われて毎晩脅されてたのか…許せねぇ、あの野郎。
よし、俺がお前を守ってやらあ。このタクシーで今から逃げるんだ。お前の田舎、高知へ送って行ってやるぜ。俺もよ、タクシー飽き飽きしてたんだ。一緒に行ってやるよ。
あぁ…タクシーやめた!やめた!ズラかるぞ!!
ところで高知って九州だったっけ?」
そこへ美男子の夏子の彼氏がやってきた
夏子
「あっ、あんた!迎えに来てくれたの?嬉しーい!愛してるー!寂しかったぁ夏子親切な運転手さんに人生相談してたのよ。スッキリしたー!
よぉし、新しいお店で稼ぐわよ!正月はハワイよ!!」