第282話 (2001/08/31 ON AIR)
『月』 作:深津 篤史

深夜
車のクラクション
時々な、きゅうってなるねん。
うん。

胸のこの辺がな。

もうちょっとここにおるか。

え?

しんどいやろ。

大丈夫やから。

大丈夫て。

先戻ってて。

けど。

みんな盛り上がってる?

踊り狂ってるわ。

女、少し笑った

ボックスの中、熱気ムンムンや。息苦しくなるくらい。

それで出てきたん?

え?

ああいうノリ苦手なん?

まあな。

嘘ばっかり。

何で?

最初の方、盛り上げてたん、自分やん。
まぁ、せやけどな。

充分盛り上がってるし?

うん。

お役目ご苦労様でした。

はは。

嘘ばっかし。
何が?

私、大丈夫やから、な。

なって。

先戻ってて。

うん。

もうちょっとしたら戻るから。

うん。

全開盛り上げるから。

全開て。

中島みゆき、熱唱とか。

そら、盛り下がるやろ、思いっきり。

うん。

ええと。

だからな。

俺、好きやで、中島みゆき。

女、少し笑って

自信あるよ。

え。

盛り下げるの。

そら、凉しなってええわ。

なぁ。

俺ジャマか?

え?

ジャマやったらええし。
一人の時の方がええ時もあるし。

そんなんやない。

え。

そんなんやあるんかな。

あ、違う、違う。
ジャマとか、そういうのとは違う、うん。

タバコ、吸う?

うん。

二人、タバコに火をつけた

別に心配してへんし。

うん。

あいつらも別に心配してへんし。

うん。

俺もな。

うん。

しんどいから出てきただけやし。

うん。

そしたら自分がおっただけやし。

うん。

声かけてみた。

うん。

あんまりしゃべった事ないし。

せやな。

下心もちょっとある。

女、少し笑った

そのぐらいでええやん。

うん。

ホテル行こか。

今から?

うん。

ええよ。

俺、な。

女、少し笑って

も、

え。

嘘ばっかし。

嘘って。

無理せんでええよ。

うん。

軽いフリすんの、ヘタクソやねん。
目、笑ってないし。
手、ぐー握ってるし。

うん。

私な、

うん。

時々、胸の所がきゅう、てなるねん。

ああ。

そういう時はな、男の人とエッチしたら治るねん。

ああ。

ごめんな。

俺、

私なぁ。

うん。

実家の裏に竹やぶがあってな、犬連れて散歩に行く。
犬と一緒にぼんやり座ってる。
夕方の空にお月様が浮かんでる。
風が竹やぶを揺らしてく。
私と犬。竹やぶの中にお月様。
寂しくないねん。私一人やのにな。
寂しくない。
誰かのそばにいる時よりもな。
誰のそばにいる時よりもな。