第286話 (2001/09/21 ON AIR)
『嘆きの怪獣』 作:樋口 美友喜

一人ぼっちの帰り道
ずりずり足は重くて

ソラ 嘘じゃないもん。ホントにホントなのに。
嘘つきじゃないもん。だって見たんだって。
サンタクロースも死んだおじいちゃん、流れ星もしゃべる猫も、空に昇っていく竜も、全部ホントに見たんだから。
嘘…なんか、ついてないのに。
急に涙が零れそうになった途端
一粒、二粒
空からおっこってきた
後から後からパラパラ パラパラ
ソラ あ…あ~、やだなぁ…カサ、カサ…。
傘 さした瞬間 風がさらう
ソラ

うわぁ。もぉ~飛ばされちゃったよ。
もういいや、走っちゃえ。

走り出すとランドセルが揺れる
スカートが揺れる
ソラの呼吸も揺れる

ソラ

風きついなぁ、あ~あ…冷たーい。

“ガッチャン”
誰もいない家にぐるんと回る鍵の音 響いた

ソラ

…ただいま~…おかえりー…。

しいんと静か
テーブルの上のメモをひらり取り上げ

ソラ

ソラへ。
1、ご飯は冷蔵庫。
2、十時までに寝なさい。
3、戸締りはしっかり…はいはーい。いつもの事でしょ。わざわざ書かなくても分かってるよ。
…やっぱり今日も遅いのか。

おっきなため息ひとつ
誰もいないキッチンに向かってわざと明るくわざと大声で

ソラ

あのね、あのね、今日学校でね、田舎のしゃべる猫の事話したの。
それから去年のサンタさんの影を見たことと、おじいちゃんがお盆に帰って来たことも、それから、それからね…
「ウソツキ」だって、言われたんだよ…私…あ~あ…あ~あ!…あ~あ!!

びゅるんびゅるん
大きな風が窓を強く叩いた

ソラ

!びっくりした。風かぁ。
あー…すごい雨。
急いで帰ってきて良かったぁ。
おお、おお、すごいよ、この風。
18号だっけ?19号だったかな?上陸するのかなぁ。
そしたら明日学校休みだ。
ふふふ~ドキドキしちゃう。
ふふふ、もっと荒れろ。もっともっと荒れろ!
ごーごごー…。

ごうごう唸る風の音
風の大暴走
一瞬、風の音に混じって何か聞こえた

怪獣

ごぉぉぉぉぉ

ソラ

ん?

耳を澄ませば
くるくる風の音だけ
ソラ

風の音、かな。

怪獣

ごぉぉぉぉぉ

ソラ えぇ?何?…今の。
怪獣 ごおぉぉぉぉ
ごぉぉ
ざざざぁ
ソラ

何か…聞こえた。
うん、絶対に聞こえた!

怪獣

がおぉぉぉぉぉ

ソラ

風…じゃない、じゃないよ、あの音は。

怪獣

がおぉぉぉぉぉ

ソラ 犬が吠えているみたい。
怪獣 がお がおぅ ごおぉぉぉぉ
ソラ

違う。もっとでかい奴だ。

怪獣 ばき ばきばき ばきばき
ソラ

くま、ううん違う。
もっと…ライオン?

怪獣

ざざざぁ ばきばき ざざざぁ ばきばき

ソラ

違う、もっとでかい奴。
こーんなにおっきい…ううん、もっともっともっとでかい奴…かいじゅう?
…そう、そうだ!かいじゅうだ。
それ以外考えられない、うそぉ!でも…。

ごうごう唸る風の音が
耳を澄ますと次第に

怪獣

ごぉー ごごごぉー がおぉぉぉぉ

ソラ

ほら、やっぱり。

怪獣

ごぉぉぉ

ソラ

ほら、吠えてる。

怪獣

ずーん ずーん ずーん

ソラ

ほら、一歩一歩歩いてるんだ。

怪獣

ばき ばきばきばき

ソラ

何だろ、あの音。

怪獣

ばき ばき

ソラ

わかった。あれきっと街を踏み潰した音。

怪獣

ばきばき むしゃむしゃむしゃ

ソラ

あれは、あれはね、たぶんどこかの木をもぎ取って口にほおりこんで食べちゃった音。

怪獣

ひゅるるるるるる ひゅるん ひゅるるん

ソラ

きっとあれは鼻息だな、うん。

怪獣

ずぅぅぅぅん ずぅぅぅぅん

ソラ

なんか、どんどん近づいて来てるかもしれない。

怪獣が唸ると地面が震える

ソラ

うわぁ、なんだか…大変だって、これ。

ピポパ 早押しで電話のボタンを押す

ソラ

もしもし、もしもしやっちゃん?
大変だよ、落ち着いて聞いてね。今ね、かいじゅうが上陸しちゃったよ。

怪獣

ごおごおごお

ソラ

ほら、聞こえた?
嘘じゃないって、ねぇ…あっ…。

ツーツーツー

あきらめずピポパの早押し

ソラ

もしもし、くみちゃん。
あのね、今ねかいじゅうが街を踏み潰してるんだよ。

怪獣

ばきばき

ソラ

ホントだって、ちょっと…。

ツーツーツー

あきらめずピポパの早押し

ソラ

あ、しーちゃん。聞いて。怪獣だよ。早く逃げなくちゃ。
え?ううん、まだ見てない。
でもね足音も聞いたよ。風の音じゃなくて、よく聞いてみて。ずーんずーんって。
…え?何で、そんなこと言うの?何で?
いい、もういいよ。もう、ウソツキって言うな!

ガチャンと
こっちから切ってやった

怪獣

うううん うううん うううぅぅぅ

ソラ

う~…だって吠えてるもん。ちゃんと姿見たって言ったら信じてくれるかな。
う~駄目だぁ。だって今まで信じてもらえたこと一回もないもん。
う~…。

ソラがもう爆発して泣き出しそうな時

怪獣

うぉぉぉん うぉぉぉん うぉぉぉん うぉぉぉん

ソラ

…へ…?

怪獣

うぉぉぉん

ソラ

泣いてる?
何でよ、泣きたいのは私の方だよ。

怪獣

うぉー…おーん おー…ん

がらり
勢いよく窓を開けた

ソラ

こらぁ。何であんたが泣くの。
泣きたいのは…。

怪獣

うおーーーーー…ん くすん くすん

ソラ

泣きたいのは…

怪獣

くすん くすん すん すん

ソラ

どうして、泣いてるの?あんた。

怪獣

くすん すん

ソラ

ねぇ~、聞こえてる~?どーして泣いてるの~?
どこにいるの~?もう全然見えないよ。

怪獣

なんでだろ

ソラ

あれ?

怪獣

なんでかな

ソラ

答えた!?

怪獣

うぇぇぇん

ピポパの早押し

ソラ

もしもし、まーちゃんすごいよ。
私、今ね…。

怪獣

ちかづく こわれた ちかづく つぶれた ほおずり ふきとんだ

ソラ

かいじゅうと喋ってるの。姿は見えないけど。
ねぇ、顔見せてよ。

怪獣

だめ ぜんぶぜんぶこわしちゃうから ぜんぶぜんぶなくなった

ソラ

だから~、泣いてるの~?

怪獣

ちかづくのだめ ふれるのだめ なんにもない うぇぇぇん

ドドドっと大量の雨

ソラ

うわぁ!大粒だ。
ちょっと泣き止んで。どしゃ降りじゃない、
何がそんなに哀しいのよ?

怪獣

うぇぇぇんうぇぇぇぇん

ソラ

あのね、かいじゅうが泣いたら大雨になるんだよ……もしもし?まーちゃん?…あ…

ツーツーツーの音
からまわり

ソラ

あ~あ…

怪獣

うぇぇぇん うぇぇぇぇ…ん うぇぇぇ…うぉーーーーーん

ソラ

…そっか、
そうか、あんたも。

怪獣

う?

ソラ

あんたも一人ぼっち?

怪獣

うぇぇん うぇぇん えーん えーん

ソラ

泣くな!

怪獣

うお?

ソラ

泣くな、かいじゅう。泣きやめ、かいじゅう。泣いたら、余計に…だから、泣かないで。

怪獣

……なかないで……?

ソラ

うん。私も。泣かない。

怪獣

うううん ううん ひゅるるるん

ソラ

あ…やんできたね。雨。/B>

怪獣

ひゅるるるん ひゅう ひゅー

ソラ

ねぇ、どこにいるの?
どっか行っちゃった?

怪獣

ひゅーうう さらさらさらさら

ソラ

あ…。

怪獣

さぁー…

ソラ

わぁ、気持ちいい風。
なんだ、ちゃんとここにいるんだ。
ほらね、泣き止んで良かったでしょ?

ソラ、チビチビになった怪獣と少し遊んでみた