話(2001年 月日 ON AIR)
「嘆きの怪獣」

作・

樋口 美友喜

  
 

一人ぼっちの帰り道
ずりずり足は重くて

  
ソラ嘘じゃないもん。ホントにホントなのに。
嘘つきじゃないもん。だって見たんだって。
サンタクロースも死んだおじいちゃん、流れ星もしゃべる猫も、空に昇っていく竜も、全部ホントに見たんだから。
嘘…なんか、ついてないのに。

  
 

急に涙が零れそうになった途端
一粒、二粒
空からおっこってきた
後から後からパラパラ パラパラ

  
ソラあ…あ~、やだなぁ…カサ、カサ…。

  
 

傘 さした瞬間 風がさらう

  
ソラうわぁ。もぉ~飛ばされちゃったよ。
もういいや、走っちゃえ。

  
 

走り出すとランドセルが揺れる
スカートが揺れる
ソラの呼吸も揺れる

  
ソラ風きついなぁ、あ~あ…冷たーい。

  
 

“ガッチャン”
誰もいない家にぐるんと回る鍵の音 響いた

  
ソラ…ただいま~…おかえりー…。

  
 

しいんと静か
テーブルの上のメモをひらり取り上げ

  
ソラソラへ。
1、ご飯は冷蔵庫。
2、十時までに寝なさい。
3、戸締りはしっかり…はいはーい。いつもの事でしょ。わざわざ書かなくても分かってるよ。
…やっぱり今日も遅いのか。

  
 

おっきなため息ひとつ
誰もいないキッチンに向かってわざと明るくわざと大声で

  
ソラあのね、あのね、今日学校でね、田舎のしゃべる猫の事話したの。
それから去年のサンタさんの影を見たことと、おじいちゃんがお盆に帰って来たことも、それから、それからね…
「ウソツキ」だって、言われたんだよ…私…あ~あ…あ~あ!…あ~あ!!

  
 

びゅるんびゅるん
大きな風が窓を強く叩いた

  
ソラ!びっくりした。風かぁ。
あー…すごい雨。
急いで帰ってきて良かったぁ。
おお、おお、すごいよ、この風。
18号だっけ?19号だったかな?上陸するのかなぁ。
そしたら明日学校休みだ。
ふふふ~ドキドキしちゃう。
ふふふ、もっと荒れろ。もっともっと荒れろ!
ごーごごー…。

  
 

ごうごう唸る風の音
風の大暴走
一瞬、風の音に混じって何か聞こえた

  
怪獣ごぉぉぉぉぉ

ソラん?

  
 

耳を澄ませば
くるくる風の音だけ

  
ソラ風の音、かな。

怪獣ごぉぉぉぉぉ

ソラえぇ?何?…今の。

怪獣ごおぉぉぉぉ
ごぉぉ
ざざざぁ

ソラ何か…聞こえた。
うん、絶対に聞こえた!

怪獣がおぉぉぉぉぉ

ソラ風…じゃない、じゃないよ、あの音は。

怪獣がおぉぉぉぉぉ

ソラ犬が吠えているみたい。

怪獣がお がおぅ ごおぉぉぉぉ

ソラ違う。もっとでかい奴だ。

怪獣ばき ばきばき ばきばき

ソラくま、ううん違う。
もっと…ライオン?

怪獣ざざざぁ ばきばき ざざざぁ ばきばき

ソラ違う、もっとでかい奴。
こーんなにおっきい…ううん、もっともっともっとでかい奴…かいじゅう?
…そう、そうだ!かいじゅうだ。
それ以外考えられない、うそぉ!でも…。

  
 

ごうごう唸る風の音が
耳を澄ますと次第に

  
怪獣ごぉー ごごごぉー がおぉぉぉぉ

ソラほら、やっぱり。

怪獣ごぉぉぉ

ソラほら、吠えてる。

怪獣ずーん ずーん ずーん

ソラほら、一歩一歩歩いてるんだ。

怪獣ばき ばきばきばき

ソラ何だろ、あの音。

怪獣ばき ばき

ソラわかった。あれきっと街を踏み潰した音。

怪獣ばきばき むしゃむしゃむしゃ

ソラあれは、あれはね、たぶんどこかの木をもぎ取って口にほおりこんで食べちゃった音。

怪獣ひゅるるるるるる ひゅるん ひゅるるん

ソラきっとあれは鼻息だな、うん。

怪獣ずぅぅぅぅん ずぅぅぅぅん

ソラなんか、どんどん近づいて来てるかもしれない。

  
 

怪獣が唸ると地面が震える

  
ソラうわぁ、なんだか…大変だって、これ。

  
 

ピポパ 早押しで電話のボタンを押す

  
ソラもしもし、もしもしやっちゃん?
大変だよ、落ち着いて聞いてね。今ね、かいじゅうが上陸しちゃったよ。

怪獣ごおごおごお

ソラほら、聞こえた?
嘘じゃないって、ねぇ…あっ…。

  
 

ツーツーツー

あきらめずピポパの早押し

  
ソラもしもし、くみちゃん。
あのね、今ねかいじゅうが街を踏み潰してるんだよ。

怪獣ばきばき

ソラホントだって、ちょっと…。

  
 

ツーツーツー

あきらめずピポパの早押し

  
ソラあ、しーちゃん。聞いて。怪獣だよ。早く逃げなくちゃ。
え?ううん、まだ見てない。
でもね足音も聞いたよ。風の音じゃなくて、よく聞いてみて。ずーんずーんって。
…え?何で、そんなこと言うの?何で?
いい、もういいよ。もう、ウソツキって言うな!

ガチャンと
こっちから切ってやった

怪獣うううん うううん うううぅぅぅ

ソラう~…だって吠えてるもん。ちゃんと姿見たって言ったら信じてくれるかな。
う~駄目だぁ。だって今まで信じてもらえたこと一回もないもん。
う~…。

  
 

ソラがもう爆発して泣き出しそうな時

  
怪獣うぉぉぉん うぉぉぉん うぉぉぉん うぉぉぉん

ソラ…へ…?

怪獣うぉぉぉん

ソラ泣いてる?
何でよ、泣きたいのは私の方だよ。

怪獣うぉー…おーん おー…ん

  
 

がらり
勢いよく窓を開けた

  
ソラこらぁ。何であんたが泣くの。
泣きたいのは…。

怪獣うおーーーーー…ん くすん くすん

ソラ泣きたいのは…

怪獣くすん くすん すん すん

ソラどうして、泣いてるの?あんた。

怪獣くすん すん

ソラねぇ~、聞こえてる~?どーして泣いてるの~?
どこにいるの~?もう全然見えないよ。

怪獣なんでだろ

ソラあれ?

怪獣なんでかな

ソラ答えた!?

怪獣うぇぇぇん

  
 

ピポパの早押し

  
ソラもしもし、まーちゃんすごいよ。
私、今ね…。

怪獣ちかづく こわれた ちかづく つぶれた ほおずり ふきとんだ

ソラかいじゅうと喋ってるの。姿は見えないけど。
ねぇ、顔見せてよ。

怪獣だめ ぜんぶぜんぶこわしちゃうから ぜんぶぜんぶなくなった

ソラだから~、泣いてるの~?

怪獣ちかづくのだめ ふれるのだめ なんにもない うぇぇぇん

  
 

ドドドっと大量の雨

  
ソラうわぁ!大粒だ。
ちょっと泣き止んで。どしゃ降りじゃない、
何がそんなに哀しいのよ?

怪獣うぇぇぇんうぇぇぇぇん

ソラあのね、かいじゅうが泣いたら大雨になるんだよ……もしもし?まーちゃん?…あ…

  
 

ツーツーツーの音
からまわり

  
ソラあ~あ…

怪獣うぇぇぇん うぇぇぇぇ…ん うぇぇぇ…うぉーーーーーん

ソラ…そっか、
そうか、あんたも。

怪獣う?

ソラあんたも一人ぼっち?

怪獣うぇぇん うぇぇん えーん えーん

ソラ泣くな!

怪獣うお?

ソラ泣くな、かいじゅう。泣きやめ、かいじゅう。泣いたら、余計に…だから、泣かないで。

怪獣……なかないで……?

ソラうん。私も。泣かない。

怪獣うううん ううん ひゅるるるん

ソラあ…やんできたね。雨。/B>

怪獣ひゅるるるん ひゅう ひゅー

ソラねぇ、どこにいるの?
どっか行っちゃった?

怪獣ひゅーうう さらさらさらさら

ソラあ…。

怪獣さぁー…

ソラわぁ、気持ちいい風。
なんだ、ちゃんとここにいるんだ。
ほらね、泣き止んで良かったでしょ?

  
 

ソラ、チビチビになった怪獣と少し遊んでみた