288話(2001年10月5日 ON AIR)
「黄金虫」

作・

深津 篤史

ここ昔の俺んちや。

え。

って夢。

夢。

うん。そんな夢見た。

ええお葬式やったね。

ああ。

焼き場には行くん?

いや、親族やないしな。

うん。

暑いわ。

喪服持ってたんや。

30過ぎたええ大人やし。

うん。

暑いわ、ほんま。

夏に逆戻りしたみたいやな。

夏は。

何?

あっという間やったわ。

そやね。

ギラギラ光っとる。

太陽。

黄金虫。

え?

そこの植え込みんとこ。

あ。

まだ生きとるねん。

アリ。

うん、アリたかっとるけどな、時々ピクピクッって動く。

うん。

夏も終わりやねん。

あ。

な、生きてるやろ。

うん。

かわいそう。

え?

とか。

なに。

一生懸命とか。

何。

残酷とか。

うん。

そんな事考えるんは人間だけや。

うん。

黄金虫がゆっくり死んで行く。

何考えてるんやろな。

そんな脳みそない。

あんた。

え。

声かけにくくって、遠くから見てた。

ああ。

車止めに座り込んで、背中丸めてうつむいて、じっとしてる。

うん。

時々思い出したみたいに煙草を口に持ってゆく。

うん。

真っ黒な背中がギラギラ光ってる。

  
 

男 少し笑った

  
そばに行っても動かへん。

おるんわ知ってた。目の端に足元見えたし。

何考えてるかなんてわからへんけど。

ああ。

一緒の空気吸おう思て。

ああ。

出来るだけ近くで。

空気か。

それだけの事やねんけど。

それだけ。

あの黄金虫も、アリも、あんたもあたしも、一緒の空気吸ってる。

うん。

おセンチか。

いや。

邪魔か、あたし。

え。

一人でおりたい?

たぶん。

何。

あの黄金虫な。

え。

いや、ええとな。

何。

一匹で死ぬよりはええかな。

アリ。

うん。

あたしもアリ?

いや、そういうつもりや…。

触ってもいい?

え。

手。

うん。

握りかえさんでええよ。

すまん。

じっとしてて、ええよ。

うん。

あんたの指先から何か伝わってくる。

俺も。何やろ。

言葉にせんでいい。

うん。

そのほうが、同じ気持ちになってる。

ああ。

そんな気がする。

ああ。

な、どんな夢?

え。

さっきの話。

目覚めたら実家のベッドでな、首のない幽霊が踊っとった。

  
 

女 少し笑って

  
何それ。

何の意味もない。

うん。

そんな話したくってな。

ハンカチ、持ってる?

  
 

男 少しわらった