第290話 (2001/10/19 ON AIR)
『リセットの街』 作:芳崎 洋子(絆~あざない~)
ゲスト出演:小栗一紅(流星倶楽部)

神戸の街が一面に見下ろせる展望台
二人は眼下に広がる夜景を眺めている
男は東京から大阪に転勤して半年
標準語を話す
男 感慨深げに

一億円かぁ。

一億円?
いや、一億二千万円か。今1ドル120円位だろ。
え?
え?もっと安かったっけ?

何のこと?

ほら、“百万ドルの夜景”って言うから。

あぁ。

圧巻だよなぁ。キラキラしたうねりが流れて、その周りで光りの玉が瞬いてる。

うん。

この電力消費量の総額が百万ドルだったりして。

まさか。

あぁ~、海と山に挟まれた街かぁ。
東京の連中に見せてやりたいよ。転勤だっていい事あるぞ~、ってさ。
あ、神戸、よく来るの?

あんまし来ぇへん。

どうして?大阪より買い物しやすそうだし、ごちゃごちゃしてないし。

(きっぱり)ええねん、大阪の方が。

……ふ~ん……。

男は少しためらいがちに

……じゃあ、ここ初めて?

え?

この夜景見るの初めてかなぁ、って。

夜景は見たことあるよ。
ここかどうかは忘れたけど。
男 やや意気消沈して

……そうだよな。

誰かて見てるんちゃう。阪神間で生まれ育ったら。

男 探るように

……やっぱ、あれだよね……?

何?

やっぱ男とだよな、一緒に夜景見るなんて言ったら。

何で?

普通、女同士で来ないだろ、こういうとこ。……ここに来たら急に口数少なくなったし。

小さい時のことやって。

小さい時?

うん。一緒に来たのは神戸の伯父の家族とやし。

あ……、そうなんだ。
(ホッとして)俺、また特別な思い出でもあんのかと思った。

……特別な思い出……。

そっかぁ。

男は嬉しそう
女は遠くを見つめて

そん時もな、今みたいにネオンがキラキラしてたわ。別に感動もなかったけど、このキラキラは毎晩毎晩ずーっとキラキラなんやろうなぁ、って思ってん。

うん、今も変わらずキラキラしてる。

ううん。…消えてん、あん時。

え?

いっぱいのキラキラはな、何かすごい事が起こるとそこだけポッカリ真っ暗になんねん。

すごい事?

うん。きっと今ごろ、ニューヨークも真っ暗やろな。
そこの灯りだけ消えて、ポッカリ…。

……あぁ。

(割とあっさりと)ここのキラキラが消えた時、伯父の家族も一緒に消えてしもた。

…そうなんだ。

うん。

小さい間。
男 その場を取り繕うように

でも人間ってたくましいよな。そんな事があったなんて思えないくらい今じゃ元通りだし。
えーっと、何年前だっけ?

今度の1月で7年。

(励ますように)もうないよ、これが消えるような事は。
ネオンもこの街も綺麗なまんまだって。

うん。…でも綺麗すぎるからなぁ、このキラキラに責められてるような気がすんねん。
街の景色も、建物も、ニコニコ歩いてる人達も、リセットしてんねんけど綺麗すぎてな。
見るもの全部が、忘れてエエんか、って責めてくんねん。

……リセットの街か……。

心もリセットするんやろか…。絶対忘れられへんって思てたはずやのに…。

小さい肩。

なぁ。

ん?

行こうか。

……エエの?さっき来たとこやのに。

うん、俺も日ぃ改めるよ。リセット。

うん、……ごめんな。


二人が歩き出した時
街のネオンが一斉に消えた

あれ?

何か急に暗なったなぁ。

(街を指さし)ほら、あっち!

(街を見下ろし)あっ!

消えた!

……消えてる。……街のキラキラが、全部……。

二人は
ただ暗くなった街を見下ろしていた

遠く
遠くで
パトカーのサイレンが響いている