第291話 (2001/10/26 ON AIR)
『旅に出よう、秋だから』 作:四夜原 茂
ゲスト出演:武田躁美(劇団鉛乃文吾)

郊外を走るJRの中
対面シートに男と女が座っている。

なに考えてんの?

いや、べつに。
当ててみましょうか?あなたはさっきからずーっと同じ事を考えてる。
「どうしてオレは電車に乗ってるんだろう。」
<どうしてオレは電車に乗ってるんだろう。

「見知らぬ女と一緒に」

<見知らぬ女と一緒に。>

それからあなたは、ビデオを巻き戻して、今日のお昼にあなたが立っていた駅前の様子を思い浮かべる。そして注意深く検証するの。いったい何があったんだろうって。

<いったい何があったんだろう。>

ほらほら、また同じこと考えてる。堂々めぐりになってるわよ。
目を覚ませ、コースケ。

<…コースケ。まるでナミエだ。本当にこいつはナミエにそっくりだ。コースケって言った後の勝ち誇ったようなあの表情。どこがナミエと違うかというと…えーと、えー……。


駅前の雑踏

コースケ!

わ!!

あ、びっくりした?アハハハ…、コースケびっくりしてる。ごめんごめん、アハハハ…。

ちょっとぉ…。

だから謝ってるじゃないの。ごめんね。

………。

あれ?怒った?

いや…誰だっけ?

え?

ちょっと待てよ。…あー!いや、違う。えーと、どこかで会ったことある。えーと、えーと。あれ?思い出せない。

あーあ、私ってそんなに印象薄い?
いや、ね。もうここまで出かかってんだけどさ。
ヒント下さい。

もう…。あなたと12時に待ち合わせして、買い物に行く女。それが私よ。

え?ナミエ?

ナミエ。

ナミエ…はまだ来てないよ。

私がナミエなんです。

いや、だからね。…あ。わかった。
ナミエと同じジャンパー着てるからだよ。それでどっかで会った事あるなーって思ったんだ。

ナミエのジャンパー、ほら、ナミエのネックレス、ナミエの時計、ナミエのスニーカー。

…あんた、誰?

ナミエ。

ナミエじゃないよ。

じゃあ、ナミエに頼まれてナミエの代わりに来たナミエのコピー。

あいつ、何か企んでるのか?

そうじゃないと思う。ナミエは遠くへ行ったのよ。

はー?遠くへ行ってお星様になったとか?

そうじゃなくて。仕事で遠くへ行くことになったから、今日来られないって。

それで君を代わりによこしたっての?電話くらいかけて来ても良さそうだけどな。

携帯通じないんだって。

え?そんなとこへ行っちゃったのか。

さ。お買い物いこ。

ああ…って、ちょっと待ってよ。お買い物って言ったって、あれだよ。そこのコンビニへ行って夕食のおにぎり買って、あと、レンタルビデオ屋をのぞいたりするだけなんだよ。

いいじゃないの、いこ。

あんたには悪いけどさ。オレ、一人で行くわ。

な、なんでよ。どうしてよ、コーちゃん。

なんかさ…。

落ち着かない。

そ、そう。

なじめない。

そう。

すぐ慣れるわよ。2ヶ月もあるんだからさ。

2ヶ月?!ナミエ2ヶ月も帰って来ないのか?!

大丈夫よ、心配しないで。
あたしがちゃんとナミエの代わりするから。

ナミエの代わりって、その、ビデオ屋寄ってからオレの部屋へ行くんだよ、いつも。

それで?

それで、その、ビデオ見ながらオニギリ食べてさ。えー、夜になるじゃないか。そしたら、えー、その、ベッドも恋しくなるし。あー、えへん、そのだね…。

今日初めて会ったのに、いきなり……?

だから、そうじゃなくて…。

変態!

ちょっと。声が大きいよ。みんなに見られてるよ。

コーちゃん、見損なったわ、あなたのこと。

だから、何言ってんだよ。君がナミエの代わりをするって言うからじゃないか。

誰でもいいの?

誰もそんな事言ってないよ。

いいえ、誰でもいいみたいだった。女だったら誰でもいいぞ。ぐへへへへ。きゃー、けだものー!

ちょっとちょっと、そうじゃないよ。そうじゃなくてさ、オレはさっき一人で行くって言ったじゃないか。な、ここで君とわかれて一人でコンビニ行くんだからさ、変なこと言わないでくれよ。

お金、ないの?

え?うん。ないよ。

なんだ、早く言ってくれればいいのに。貸したげるよ、お金。

どうするの?そのお金で。

はじめてのデートなのよ。ちゃんとしたいんでしょ。コーちゃんも。さ、行こう。

ちょっと待って。はじめてのデートってまさか。

映画見るとか。

勘弁してくれー。オレ、暗い所ダメなんだよ。

あれ?ナミエとは行ったんでしょ。月に2回は映画見てたって言ってたわよ。

それは昔の話。その頃いろいろ無理してたんだよ、オレ。映画の後イタメシ屋に行ったり、ショットバーに行ったり、大変だったんだよ。

ネックレスを買ったり時計をプレゼントしたり。

そうそう。オレ、すっごく苦労したの。わかる?

わかる。ナミエも苦労したって言ってたわ。

ナミエも?

映画もイタメシも、ショットバーも、実はあんまり好きじゃなかったのよね、ナミエ。

お。はじめて聞くよ、その話。

でもコーちゃんが連れてってくれるから行ってたわけ。嬉しかったって。

なんだよ、それ。好きじゃなかったけど嬉しかったっての?

そう。コーちゃんも無理してるのわかってたしね。映画がビデオに変わって、イタメシが焼肉を経由して、牛丼に変わり、コンビニのオニギリになってゆくと、ナミエ、凄く落ち着いたって言ってた。

なんだ、オレと一緒じゃないか。

最初、大変だもんね。

そ。なんかさ、知り合ってすぐの頃って、無理していろいろやりたくなるんだよね。日曜日ごとにどこかへ出かけたりしてさ。

何ヶ月かすると落ち着いちゃうけどね。

1年くらいするともう…。

もう、なに?

空気みたいに普通になっちゃうね。

落ちついちゃって、また最初の映画から始めるのが面倒になってくる。

え?ナミエがそう言ってたのか?

……コーちゃん。どっか行こうか、久しぶりに。

どっかって?

電車に乗ってさ。2人で少し無理したり、苦労したりするわけ。

ナミエ…。

え?

あ、間違えた。

ふふふ、ナミエよ、ナミエ。下り線のホームに行って最初に来た電車に乗るの。
どう?

うーん。結構いいかも知れない。

行こ。

うん。…でさ。君は…誰なの?

汽笛
電車の中

コーちゃん!また何か考えてる?

あ、ごめん。

見て見て、ビルが消えて、家が消えてゆくとさ。夕日があんなにでっかく見えるよ。

ここ、どの辺りなんだろう。

さあ。

ナミエってさぁ。

なに?

………いや、何でもない。