294話(2001年11月16日 ON AIR)
「あれから」

作・

久野 那美
ゲスト出演:大野 美伸(エレベーター企画)

  
 

爆音

  
ねえ。外、雪が降ってる。

雪じゃないよ。

でも、寒いよ。

うん。



なに考えてる?

うーん。何にも。

寒いのに?

うん。

雪降ってるのに?

うん。

真っ暗なのに?

うん。

………。

だって眠くて。

眠い?

うん。

あんなに寝たのに?

うん。

そう。じゃ、……おやすみ。

うん。……おやすみなさい……。

  
 

爆音


広い高原をのしのしと歩き回るたくさんの生き物
大きな足音と鳴き声が
ときどきあちこちから聞こえてくる

  
かれらはそれはもうものすごくおおきかったので、なにをするにもずいぶんじかんがかかりました。けれどもいきものですから、いつも、たえまなく、なにかをしていなければなりませんでした。
はいをおおきくふくらませてくうきをたくさんすいこんだり。
おおきなおくばでたべものをすりつぶしたり。
しんぞうからどくどくとけつえきをおくったり。
じかんがかかるからといってどれかをやめるわけにはいきませんでした。
ですから、かれらはいつもなにかをしているさいちゅうでした。なにをするにもあんまりにじかんがかかるので、なにをやっていたのか、やっているあいだにすっかりわすれてしまうのでした。いまなにがおこっていて、これからなにがおこるのか。いつもよくわからないままに、はじめてしまったことをつづけていました。

ずいぶんながいあいだそれをくりかえしていたものですから、そのあいだに、ほしのようすはすこしずつへんかしていきました。あたたかかったくうきはつめたくなり、ほうふにあったえさがなかなかみつからなくなり、じめんはあるきにくくなりました。
いきものたちのかずがへり、しょくぶつのようすもかわっていきましたが、かれらはきづきませんでした。しろいつめたいゆきがふりはじめ、じめんがゆきとこおりにおおわれはじめても。
いまなにがおこっていて、これからなにがおこるのか…、なにもわかりませんでした。
はじめてしまったことをつづけていました。
だって。
なにかとってもたいせつなことをしているさいちゅうだったのです。

せかいのようすはすっかりかわってしまいました。
あんなにおおきくて、つよくて、たくさんいたいきものたちは、もうどこにもみあたりませんでした。それでも、かれらはなににもきづきませんでした。

さらに長い時間が過ぎ、凍った地面の上には砂や、土や、いろんなものが積み重なっていきました。やがて、その上には新しい植物が育ち、新しい種類の生き物が生まれ、新しい森や小川や草原が生まれました。いろんな種類の生き物が生まれては消えていきました。
新しく生まれてくる生き物は、少しずつ、形を変えていきました。
身体はだんだん小さくなり、動くのが楽になり、時間をかけなくてもいろんなことができるようになりました。やがて、卵を産まないで子供を育てることもできるようになりました。
体の温度を一定に保つことができるようになりました。
後ろ足で立ち上がることができるようになりました。
暖かい火をおこし、明るい灯りをともし、協力して身を守ったり便利な道具をこしらえたりするようになりました。
衣服を着、自分たちの家を建て、集まって暮らすようになりました。
おなじ言葉を話し、大きな町を創ることもできるようになりました。することがたくさんあるので、なにをやっていたのか、やっているあいだにすっかりわすれてしまうのでした。
ですから。いまなにがおこっていて、これからなにがおこるのか。いつもよくわからないままに、はじめてしまったことをつづけていました。
さらに長い時間が過ぎると、さらにいろんなことができるようになりました。
いろんなことが素早くかんたんにできるようになりました。おなじ言葉で別々のことを話し、大きな町をいくつも一度に壊すことさえ、できるようになりました。

  
 

爆音



壊れてしまった大きな町の跡にふたりが横たわっている
あたりは一面白い灰で覆われている
小さな爆音が
ときどきあちこちで聞こえている

  
外、雪が降ってる。

雪じゃないよ。

寒いのに?

うん。

おしまいになるの?

なにが?

なにもかも。

おしまいになんかならないよ。

どうなるの?

どうにもならない。このままだよ。

このまま?

そう。このまま。

いつまで?

いつまでも。

………。

なに考えてる?

うーん。なんにも。

こんなに、なにもかもみんな壊れちゃったのに?

だって眠くて。

眠い?

うん。

あんなに寝たのに?

うん。

そう。じゃあ、……おやすみ。

うん。………おやすみなさい……。

  
 

小さな爆音がときどきあちこちで聞こえている
ふたりの身体はだんだんと
灰の中へ埋まっていく

  
しろいはいはしずかにふりつづけました。そしてやっぱり、いつまでもふりやみませんでした。せかいのようすはまたすっかりかわってしまいました。
あんなにたくさんいたいきものたちは、もうどこにもみあたりませんでした。
それでも。かれらはなににもきづきませんでした。
いまなにがおこっていて、これからなにがおこるのか…、なにもわかりませんでした。
はじめてしまったことをつづけていました。
だって。
なにかとってもたいせつなことをしているさいちゅうだったのです。