第298話 (2001/12/14 ON AIR)
『ある冬の日』 作:松田 正隆

ある夫婦の家
居間
TVの音


おはよう。
おはよう。
起きてたんですか。

うん。

早いね。

うん、何か眠れなくて。

じゃ、ずっと起きてたんですか?

いや、ま、ちょっとは寝たけど。

そうですか。

よく眠ってたよ。

誰が。

誰がって他に誰がいるの。

私がですか。

そう。

眠っちゃいけないんですか。

いけないことはないけど。

何ですか、これ。何やってるんですか。

え?
テレビ。

何かな。ニュースだね、何かの。

観てないんですか。

観てない。

・・・・・。

消すよ。

TVの音消える

お茶飲みますか?

うん。

妻お茶を入れる
茶を飲む二人

いい天気ですね。

うん、空が青いね。

あとで散歩にでも行きますか。

うん、行こうか。

チョッキを出しますね。

チョッキ?

チョッキです。去年私が編んだんです。

ああ、あれ。セーターにしようと思って、なかなか出来なくて冬を越してしまったから、急遽チョッキになったヤツね。

チョッキじゃダメなんですか。

ダメじゃないよ。

今年は何とかセーターにしますよ。

あれを?

ええ。新しく編み出したらまたすぐに冬が来て、チョッキになってしまいます。
チョッキが二枚になってしまいます。無駄です。

でも、君が編んでる間、寒いよ。

我慢してください。

うーん。

私のマフラーを貸しますよ。

あそう。でもそれじゃ君が寒いよ。

私は外に出ません。出ないであなたのセーター編むからいいんです。

そりゃ、君、体に悪いよ。たまには外にも出なきゃ。

じゃ、たまに出ますよ。ちょっとした散歩をしますよ。

その時は、その編みかけのセーターを着て、僕も外に出てもいいのかな。

いいですよ。

編みかけだから、ほどけないように気をつけなきゃね。

ええ、気をつけてくださいね。みんなほどけちゃったりしたら、チョッキにさえならないかも知れないんですから。

そうしたら、寒い冬だものね、外には出られなくなるだろうね。

ええ、そうですよ。

・・・気をつけなきゃな、本当。

ええ。

二人 茶を飲む

ところで今何時だい?

さぁ。時計はこの間、山本さんが持ってっちゃいましたから。

誰だい山本さんて。

電気屋さんですよ。

電気屋が何でうちの時計を持っていくんだよ。

あなたがもう時計はいらないって言ったんですよ。

え?ぼくが?

そうですよ。

何でそんなこと言ったんだろ。

知りませんよ。

・・・ま、必要ないって言えば、必要ないんだけどさ。

ええ。

茶をすする二人。

テレビでわかりませんか、時間。

テレビで。

ニュースとかで言いませんか、アナウンサーが。

ああ。

夫テレビをつける
アナウンサーがニュースを告げている

でも、何で電気屋が時計持って行くんだろ。

山本さん、骨董屋さんに知り合いがいるんですって。ほら、あの時計、古かったでしょう、けっこう値打ちあるかもしれないからって。

ふーん。

・・・ほんと、いい天気ですね。

ああ。うん、小春日和だ。

・・・・・・ええ。・・・・・春に小春日和はないんですか。

春のようにあったかい日って事だから、春以外の季節に使うんじゃないかな。

夏も?

夏はあったかすぎるよ。小春ってのは陰暦の十月のことなんだよ。だからま、冬だね。冬の日のあったかい日を小春日和って呼ぶんだよ。

へぇ。あなたよくそんなこと知ってますね。

常識だよ常識。

でも、私たちは、今どの場所にいて、どの時代を生きて、どの季節に暮らし、一体何時何分なのかさえ、本当はわかってないんですよ。

だから。冬の日だよ。季節はわかる。

どうして。

何となく、空の具合で。

・・・空の具合ですか・・・。

うん・・・。

アナウンサーがニュースを告げている

・・・何か、大変ですね。

え?何が?

何か、いろんな事があって。

うん・・・。

どうなるんでしょうね。世界情勢は。

うん・・・。どうなるんだろうねぇ。

・・・何時のニュースか、わかりませんね。

そのうち言うよ、きっと。

ええ、・・・何か、この人、人の良さそうな人ですしね。

・・・え?誰が。

この人。アナウンサー。

ああ。うん・・・・。

TVの音
茶を飲む二人。

・・・佐藤さんに似てますね。

誰だよ、佐藤さんって。

あなたの会社の同僚で。

いないよ佐藤なんて。

そうでした?

いないって。

・・・じゃ誰に似てるのかな。・・・誰かに似てますよ、この人・・・。

うん・・・。

TVの音
茶を飲む二人。