3話(1996年4月19日 ON AIR)

「どの季節よりもうれしい春だから」

作・水こし 町子
いつも 君とすれちがうと
あまい花のにおい なんの花だろう
たくさんの花の種類を知らないから
このにおいと 同じ花があっても
君に つたえられない
君は いつでも かろやかに
駅までの通りを 駅の階段を
駅のプラットホームを
歩いて行く
君と ぐうぜん すれちがったあと
ハッピーな ぼくに かわることを
とおりすぎていく君は
気がついていない
耳のながいピンクの うさぎの風船が
青い空を ゆっくり あがっていったvいつも空をみると 届かないところで
フワリフワリしているのが
みえる
春だから 明日は
ピンクのセーター
ピンクのマニキュア
夢の中で夢をみる
海べりの駅のプラットホームで
朝の海の色
海の中の 潮目をさがす
わたり鳥のように地球をまわり
また もどってくる
夢の中でみた夢のぼくは
海の水にとけてしまったものを
さがしている
なにか一生懸命さがしているのに
さがしているものがなにか
夢の中では わからない
海べりの駅の まあるいおおきな時計
夢のなかでは 針がない
時間なんて時計がなければ
ないのとおなじだ
クリスタルガラスの花瓶の下に
ながなが編みと こまか編みであむ
レース糸で まあるく花瓶敷きを編む
四月中に
水瓶座のあなたには
新しい出会いが待っています
うれしいわ
窓の下で小猫が
陽なたぼっこをしている
心のなかにシャバシャバと
白い小さな波が
くりかえし くりかえし よせてくる
いま君はどこにいるの
いま君はなにを おもっているの
今日も すれちがわない
今日も 君とあわない
パステルで花の絵を描く
白い額にいれる
それから どの季節よりも
産まれた日の ラベルのついた
卵を 手のひらにいれて
温める
わたしだけでなく
だれかと
気のとおくなるほどの
長い時間 手の中であたためたい
ごきげんよう
いつか きっと うまれてくるよね
こんにちは 君は犬がすきですか
こんにちわ 君はぼんやりしているのが
好きですか
こんにちは 君はシュークリームは好き
ですか
こんにちわ 君はぼくを好きですか
今度 あったら名前をきこう
ちゅうりっぷの 球根七百個
二月に作った 苗床から
赤 ピンク 白
植木鉢にうえかえて
元気をだして下さい
一人ぼっちではありません
お年寄りの 仮設住宅に
色とりどりの 花を
もうひとつの袋の中には
やさしい言葉のプレゼント
愛の花リレーのシールを
植木鉢にはって
わたしに出来る小さなボランティア
明日 まわり道して 大好きな
海へいってみよう
地震の前 海岸から
鳩がいなくなった
鳥は わかっていたのかもしれない
明日の日曜日 晴れたら
波打ちぎわの砂浜を
ひさしぶりに 歩こう
ぼくは25才
君はいくつだろう
昨日の雨で砂がしめっている
空気も あたたかく
ぼんやり 淡路島がふくらんでいる
わたしがベットの上で こわくて
泣きながら
揺られていた地震の時
この海の中
魚たちは
どうしていたのだろう
あの女の子が海へきている
今日は なんだか
ハッピーな 気がしたんだ

散歩ですか
駅でときどき あいますね

海べりのコーヒーショップで
すこし お話を しませんか