30話(1996年10月25日 ON AIR)

「夜十一時のラブ・コール」

作・水こし 町子
もしもし
何しているの?
今朝ね、外の植木鉢の底に
こおろぎが二匹いたの
そっとつかまえて
部屋の中にある
カポックの植木鉢の中にいれて
仲良くしましょうね
声をかけたら
とってもきれいな声で
返事をするように啼きだして
それから時々
本当に時々
思い出したようになくの
かごにいれなくて
よく逃げ出さないね
三年前はずっと
下駄箱のうしろにこおろぎが
住みついていたのよ
へんな家だ
へんなのよ
なにを食べていたのかしら?
冬になって
こおろぎのこと
すっかり忘れてしまって
いつのまにか こおろぎが
いっぱい友達をつれてきて
君の部屋が
こおろぎの部屋になったら
その時は
あなたの部屋に
引っ越してもいい?
早くこおろぎが
君の部屋に
ともだちを連れてくるといいな
あなたの部屋の
窓から何がみえる?
うーん 大きな
三角のピラミッド
石の角が
すりへっている
一番下から いくつの石が
積まれているのだろう
あっ
ラクダの隊列が
むこうのほうから
こちらにやってくる
そのラクダには
王子さまと
王女さまがのっているのよね
本当のラクダの背中は
すべって座りにくいんだ
王子さまも
王女さまも
ラクダの背中から
すべり落ちてしまいました
ラクダはどんどん行ってしまいます
砂の上で
王女さまはベソをかいています
王子さまは
泣いている王女さまを
おんぶして
ラクダを追いかけなければ
ピラミッドがみえるなんて
いわなければよかった
ここからは
みか月しか見えない
まるい地球の
どこへいっても
形が違うだけで
おなじ月なんだよね
こおろぎがなきだしたわ
聞こえる?
須磨の海も
すっかり静かになったね
ヨット・ハーバーの
イタリアン・レストランで
秋色の海を見ながら
次のデートは食事をしよう