304話(2002年1月25日 ON AIR)
「しんきろうの街」

作・

深津 篤史

止めて。

え。

ここで。

ここって。

いいから。

  
 

車の止まる音

  
どしたの。

うん。

田んぼのまん中だろ、ここ。

うん。

空港も。

空港も?

君んちも、さ。

遠いね。

え。

あたしんち、あのへんかな。

いや、どうだろ。

時間。

まだあるけど。

ん。

お土産買う時間なくなっちゃうよ。

そだね。

色々、あるんだろ。

あるって何。

いや、お土産渡す人。

  
 

女 少し笑った

  
つきあいとかさ。

ま、ね。

こっち来た時もさ。

ごめんね、送り迎えさせちゃって。

両手に山のようにお土産かかえてさ、うちのばあちゃんにまで貰っちゃって。

飛行機ってさ。

え。

行きと帰りじゃ、帰りの方が罪が深いよね。

罪。

いや、落ちた時の話。

何、言い出すの。

ふつうお土産かかえて帰るでしょ。やり切れないよね、お土産の散乱した墜落現場。

ああ、うん。

で、思ったんだけど。

何。

あたしの罪はどっちが重いんだろうって。

罪って。

あたしは行きも帰りもお土産かかえて飛行機に乗る。

うん。

羽田で一人一人顔を浮かべながら、あっちじゃ誰も買わないお土産を買う。本店がどこにあるかもわからないお店の洋菓子。売店でしかみかけない和菓子。思い出せない人もいる。とりあえずって多いめに買ってみる。

帰りも買うんだろ。

そう。すぐにでも思い出す人達の顔。お土産楽しみにしてるねって笑った同僚の顔。

あんまし、時間ないよ。

私が悲しいのは。

え。

私にとって悲しいのは、行きの飛行機が落ちた時だって思う。

なんで。

  
 

女少し笑った

  
縁起でもない事言うなよ。

私にとっては帰りなんだもの。帰省する飛行機は落としちゃだめだよね。

落ちないって、そうそう。

どうでもいいようなお土産でも、そこに色んな言葉、詰まってる。

だうん。

元気、とか久しぶり、とか。会いたかったよ、とかごめんね、とか。忘れちゃっててごめんね、とか。

俺は。

何。

忘れちゃっててごめんね、とか。

(少し笑って)ばか。

あんまし。

何。

あんまし暗い事言うなって。

うん。

どっちが落ちても悲しむ奴は悲しむ。

うん。

行きだろうが、帰りだろうが、まんじゅう残ってるし。

え。

まんじゅう残していかれちゃあ、切ないだろが。

  
 

女 少し笑った

  
深い事は。

え。

聞かないけど。

うん。

色々あるさ。東京でも、こっちでも。

うん、ごめんね。

雪止まねえな。

一面、真っ白だよ。

こっちじゃ珍しくもねえ。

うん。

なつかしいか。

遠くの街がね、白くもやがかかって、ぼんやり見える。ゆらゆらたってる。家も、木も。蜃気楼みたいに。

  
 

男 少し笑った

  
珍しくも、ない。

行くか、そろそろ。

うん。

  
 

車の発進音

  
遠いよ。

え。

(少し笑って)何でもない。

飛ぶかな、飛行機。

飛ぶさ。

うん。