305話(2002年2月1日 ON AIR)
「手紙」

作・

作:久野 那美
<ゲスト出演>植田 浩輔(エビス堂大交響楽団)

あのひとに手紙を書きたいのに、あのひとの居場所がわからない。
だから風に乗せて、飛ばしてみることにしました。
町でいちばん高いビルから。
2月の冷たい風に乗せて。
吹き降ろす強い風が、あっという間に私の手から手紙をつれて行きました。

  
 

2月の屋上
強い風がびゅんびゅん吹いている
女がひとり
てすりにもたれて眼下を見ている
男が階段を上がってくる

  
すごい風ですね。

はあ…。

はあ、なるほど。ここから飛ばしたわけですね。

誰ですか?あなた。何の…。

手紙を受け取った者です。

え?!

ほら。

…あーーーーーーー!!

なんですか。びっくりするじゃないですか。こんなところで大声を出さないでください。ひとが来たらどうするんです。

だって、だって、だって、だって…。

なんですか?

どうして?

何がですか?

あなたに届いちゃったんですか。

そうですよ。

どうして?

どうしてって…。

そんな…そんなの困ります。

困られても困ります。

どうして?

だってうけとってしまったんですから。ほら。

……ひどい…返して。

無茶言わないでください。

何が無茶なんですか。ひとの手紙を横取りしたりして。

なにを人聞きの悪い…。僕のところに届いたんですから。あなたにそんなこと言われたくありません。

なんであなたに届くんですか?

だから知りませんて。あなたが飛ばしたんでしょ。

だって…。

  
 

風が吹く

  
そんなに落ち込まないでください。大丈夫ですよ。きっとなんとかなりますって。

なんであなたに慰められないといけないんですか。しかもそんな無責任に。

あなたが落ち込んでるから…。私も全く無関係な間柄じゃないし。

あなたが関係するからこういうことになってるんでしょ。

そんなこと言われても…。

返してください。

嫌です。

どうして?

僕に届いたんですから、僕のものです。

…あなたが持ってても仕方がないでしょ。

何故?

あなたに宛てた手紙じゃないもの。

どこへ届けたかったんです?

…ないから飛ばしたのよ。

誰に宛てた手紙なんです?

あなたに関係ないでしょう。

そんなことわかりませんよ。

え?

でもね。僕のところに届いたんです。

ひつこいわね。

あなたのほうこそ。

…あなた…もしかして、…手紙を待ってるの?

………。

来るはずの手紙があるの?

………。

そうなのね。

………。

誰から?

………。

いつから待ってるの?

あなたに関係ないでしょう。

そんなことわからないでしょ。

え?

だって…。

あなたは?

え?

いつから書いてるんです?

………。

どうして宛先がわからないんです?

  
 

強い風が吹く……
男の手の中の手紙が風に飛ばされていく……

  
男・女あ……。あー。

  
 

ふたり風に運ばれていく手紙を見ている……
しばらく

  
良かったじゃないですか。

………。

届くといいですね。

どこへ?

どこって…。

  
 

風に運ばれて
手紙が宙を舞っている

  
あれからずうっと。わたしはあのひとに手紙を書いている。
毎日、毎日、書いている。
あのひとに届くまで。
私は手紙を書きつづける……。
……今日も誰かに届いてしまった。

今日もまた手紙が届いた。
これはどこから来たんだろう。
中には、何が書いてあったんだろう。