第310話 (2002/03/08 ON AIR)
『おしまいの星』 作:久野 那美


永い眠りから覚めた星
ブルドーザーが 土の中から 埋まった町を掘り起こしている
大勢の作業員や調査員があちこちで仕事をしている


携帯電話の音
ブルドーザーの音
クレーンの音
機械音

そっちはどう?はかどってる?
うん………。

空気は薄くない。風も吹いている…。

………。

地面もすっかり溶けてるよ。地面も空気も適温だ。

………。

水もたっぷりある。

………。

すっかり生き返ったね。

………。

ずいぶん永い間眠ってたんだな。

…そうみたいね。

暮らしやすい星だったんだろうな。

………。

何?どうしたの?

うん……。
変な顔して。

変なのよ。

え?そんなダイレクトに……。

……なんだか、変なのよ。

………は?

…どうして…。

何が変なの?

この星。

この星は変だよ。変だから調べてるんだろ。これから何が出てくるか…。

だから……。

もっと具体的にどうぞ。はい。

………。たとえば、

たとえば?

……向こうの山の西半分。途中まで植林した跡がある…。

何の木?

知らないわよ。そうじゃなくて…。

生物学にも興味あったの?

うーん。そうじゃなくて…。あ。そうだ。これ。これ見て。先月ここで…。


ポケットから一冊のノートを取り出す

何?日記?
「3月8日金曜日。晴れ。晴天だ。
昨日はほんとうにラッキーだった。あれはきっと運命の出会いだ。遅刻したからこそだ。入学式に遅刻なんてしくじったと思ったけど、寝坊してほんとうによかった。寝坊したのはそもそも……。」

その説明に2ページあるけど先に進んで。

え?そう?ほんとだ。(ページをめくる)
「…なのに大変なミスをしてしまった。あの子の電話番号をどこに書いたんだっけ…。どうしても思い出せない。ああ。どうしよう。あの子はぼくの番号をしらない…家もクラスもわからない。今日は朝から憂鬱だ。こんなに天気がいいのに。昨日はあんなおおあめだったのに…」
ありゃ。終わってるよ。ここで。

ページをめくる
最後まで真っ白

ね。

何?

ちゃんと終わってないでしょ。文が。

文の下手な奴ってどこの星にもいるんだよ。はじめたことが途中で嫌になる奴も。

そうじゃなくて。……そもそもいったいどうしてそんなこと書くのよ。

何書いたっていいじゃない。日記なんだから。

だって………。おしまいの日に?

あ……。そうか。
(日付を確認する)
だから続きがないのか。

この星の寿命はずっと前からわかってたんでしょう。おしまいの日を迎えた人達はみんな、生まれたときから何もかも分かってたんでしょう?

ひいおじいちゃんの代からね。

だったら…どうして?どうしてこの星のどこを探しても「おしまい」の跡がどこにもみつからないの?

この星は確かに終わったよ。1000年前の3月8日に。

……………。

そのあとここは氷の下に埋まってしまった。

だったらどうして?
みんな、中途半端なの。何にもちゃんと終わってない。
地面の下から出てくるものがみんな「なにかの途中。」
この先まだ続きがあるとしか思えない。
どうして…。

何かの途中…。

どうして電話番号を聞くのよ?卒業式ならともかくどうして入学式なのよ?

(ぱらぱらと日記をまくる)

しかもそれ、10年日記。

どこの星にもおんなじこと考える奴がいるんだな。

…どうして木を植えるのよ?

………おしまいの日には、じゃあ、どうすればいいの。

……………。

大掃除して、酒飲んでそば食って鐘聞くのか?

…………。


しばらく
女は何か考えている

きみだったら何をした?

私?私は……。

……何をどうやっても、絶対に避けられないことも3代前から分かってたら。

…………。

木を植えたのはきっと、最後の世代の人たちだと思うよ。







……戻ってくるつもりだったのかしら?

どこから?

どこって……。

あああああーっ!

え?何?

ここだよ。

え?

この日記のほら、裏表紙。

………。

こいつ馬鹿だなあ。ここに書いたんだよ。

…………。

電話……したのかなぁ。結局。

………電話………。



携帯電話の音
ブルドーザーの音
クレーンの音
機械音
発掘調査は続いている
地面の下から次々と
おしまいになった過去が掘り起こされていく
中途半端に終わっている過去の数々
ずうっと昔
宇宙の隅っこでひっそりとおしまいになった星で