第319話 (2002/05/10 ON AIR)
『青い点滅信号』 作:山口 茜 (漁船プロデュース)

高速道路のトンネルの中。一台の車が走る。

トンネルって哀しいなぁ。

……。

オレンジの繰り返し。このまま吸い込まれて、消えていってしまいそう。

……。

信号がないからかなぁ。どこまでも行ってしまいそう。どこまでって聞かれたらわからへんけど。

ハンバーグ食べたいな。

ハンバーグ?

うん。ハンバーグ食べたい。

人が感傷的になってる時に食いもんの話か。

なんで感傷的になる必要があんの。

必要性にかられてなるもんじゃないの。感傷的っていうのは、ムード。女はムードに弱いから。

じゃあ、…じゃあ、

ん?
じゃあ、ハンバーグってどういう風に泣くか知ってる?
え?

ハンバーグが感傷的になった時の泣き方。

はぁ?

ハンバーグは焼かれた瞬間から、ジュウジュウと泣いて黒い涙を流す。お待たせいたしました。ハンバーグは泣いている間にお召し上がりくださいませ。

そんなハンバーグ食べたくありません。

お客様、召し上がって頂かないとハンバーグが浮かばれません。

結構です。ハンバーグの幽霊なんか恐くないもん。

僕は恐いけどなぁ。




またや。

え?

トンネルって信号ないやろ、せやけどたまに見えるねん。

何が?

アオイ点滅信号。

へ?

青い点滅信号やん。注意すべきかすべきでないか、非常に悩むよね。

青が点滅してんの?

うん。トンネルの中だけやけどな。

トンネルの中だけ…。

赤の点滅やったら一旦停止するやろ。黄色の点滅やったら徐行、でも青の点滅やったら見逃し、見逃しの三振?それ野球や。

ちょっと、

行ってもいいよ、でも点滅やからどうなるかわからんでって事?保証無しの青信号か。

はい、その話終わり。

なんで?

恐いやん、なんか。

青い点滅信号が?

もう、その話やめて。

ハンバーグの幽霊は恐くないのに青い点滅信号は恐いの?

青い点滅信号なんか無いもん。点滅は黄色。黄色限定。

赤もあります。

あ、ほんまや(と笑う)。

青い。若草色の野原が一面に広がっています。こっちは夏。5月なのにもう真夏。からっとした空気が僕の顔を真っ黒に日焼けさせて、中学生の男の子と女の子が、恥ずかしそうに手をつないで歩いていくのが見えます。あ、こっちもやっぱり、女の子の集団はうるさい。黄色い声きゃあきゃあ上げて、後ろから来た自転車のおっちゃんにベルを鳴らされています。女の子て不思議や。集団になったらうるさいのに、男の子と2人の時は黙り込んで下向いて歩いてる。あ、お前は最初っから、うるさかったか。

なあ。

僕はこっちに来たこと、ようやく落ち着いて考えられるようになりました。やっぱり実家はいい。コンビニとか全然ないし、どこに行くのも車のらなあかんし、そっちに比べたらそら大変な事ばっかりやけど、なんせ自然がいっぱいや。

ちょっと。

ちょっとくさくなってしまいましたが、たまにふとお前の顔思い出すことがあります。あのときみたいに涙は出てきません。せやけど、夕焼けみてたらふと、お前の顔が浮かんでくる事があります。 オレンジ色の夕焼けに、お前の笑顔。

なに黙ってんの。

やっぱり笑ってぎゃあぎゃあ叫んでいます。僕はやっぱりろくに相手もせんと、お前の顔をかき消します。

もういい。降りる。車とめて。

会いたい。そう思って、かき消します。

車止めて!

……え?

人の話聞いてる?黙り込んでろくに返事もせんと。

あ、

降りる。

でもトンネルの中やし、

止めて。

車止まる

……ほんまに止めんなよ。

え?

そう言う時はごめんごめんって言うて謝るやろ普通。

ごめん。

信じられへん。トンネルの中で降ろされた私はどうしたらいいの?歩いてトンネル出ろって言うの?こんな夜中に?こんな夜中に高速道路の中の長い長いトンネルで若い女降ろす男の話?私聞いた事ありません。

ごめん。

……。

ごめん。

わかった。もういい。

ごめん。最後に一度、謝ってから、それから別れたかったなって、今でもそう思います。

何食べる?

お前の作ったハンバーグ、泣いてる顔のハンバーグ。もう一回食べたいなぁ。

なあ、何食べる?

以上、ちょっと感傷的に手紙を書いてみました。また。

ちょっと聞いてんの!

え?

あ…。



青い点滅信号……。

車 止まる